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私は小さくため息をつくと、持ってきた小さなカバンに財布と携帯ともらったばかりの鍵を入れて、そっと家を出た。
目の前のエレベーターホールにはもちろん誰もいる訳もなく、ここが私と翔太郎だけしかいないという事が不思議で仕方なかった。
まだ、昼前の明るい東京の街をぼんやりと眺めながら1階へ降りると、スーパーを探しながら歩くつもりだった。
「清水様、お出かけですか?」
いきなり「清水」と名前を呼ばれて、私は誰のことかわからず慌てて周りを見渡した。
「失礼しました。優里香様の方が分かりやすいですね?」
清水って……私の事か?!
自分の事だとわかり、シックなブラックのデスクにいる、コンシェルジュの男性に頭を下げた。
「スーパーに行きたいなと思ったんです。まだ地理が全然わからなくて」
私をコンシェルジュの彼にどういう風に、翔太郎が伝えてあるのかわからず、私は当たり障りのない会話をすることにした。
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