647人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、お前は俺が他の女と会って欲しいの?最初からこの結婚をうまく行かせない方がいい?」
「そんな事は……言ってない」
それは……。いくら政略結婚でも、他の女の所に行った旦那を家で待つなんて……嫌かも……。
え?嫌なの?
どんどん自分の気持ちがわからなくなって、ごまかされていると思った事もどうでもよくなり、私は翔太郎の触れる指だけに神経が集中していた。
「んっ……」
首筋に翔太郎の唇が触れたとわかると同時に、ビクリと自分でも驚くほど体が震え声が漏れた。
そんな自分に驚いて、口を押えようとして持っていたお皿が下に落ちてびっくりして、そちらに意識が向いた。
「そっちはもういい」
その言葉と同時に、私の手を翔太郎の手が包み、そのまま流れている水で洗われる。
そのまま手を握られたままの状況に、私は耐え切れず抗議の言葉を振り返って翔太郎に向けた。
「ねえ、もう……無理……」
心臓の音がうるさいし、恥ずかしいし、泣きそうになる私の目に、翔太郎の瞳が映った。
そのまま、私の否定の言葉を飲み込むように、唇が温かく塞がれた。
「黙れ」
言葉とは裏腹に、なぜか甘く優しいキスに、私の瞳から涙が零れ落ちた。
何の涙なのか、自分でも分からなかったが、どうしてもこのキスを拒否することができず、握られた手に力を込めた。
最初のコメントを投稿しよう!