プロローグ

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〈開館日時の確認〉 〈イベント・展示内容について〉 毎日届く似たような問い合わせに紛れて、不意にそのメールは舞い込んだ。 送信者は志田村(しだむら) 咲希(さき)。 もうそんな時期かぁ。 1年なんてあっと言う間だな・・・。 誰もいないスタッフルームでPC画面に見入ったまま感慨に耽っているとセキュリティシステムを解除する電子音が鳴り、ヨレヨレの白衣を着た背の高い男性が入ってきた。 伸びたボサボサの髪にポツポツと生えた無精髭。 世間一般が思い描く研究者の典型のようなその人は、外した眼鏡を右手に持ち、もう一方の手で眠そうな目を擦りながら僕に声を掛けた。 「おはよう、椎名(しいな)くん。」 「おはようございます、結城(ゆうき)さん。」 「昨日はお疲れ様。ずいぶん早いね。」 「はい、ここ何日かイベントの方にかかりきりで急用以外のメール対応ができなかったんです。だから今のうちにやっちゃおうと思って。」 「それにしてもまだ10時だよ?昨夜は片付けやなんかで3時頃までかかったんだろう?始業は13時なんだからもっと休めばいいのに。」 「何だか目が覚めちゃったんですよ。それでも6時間近く寝たので大丈夫です。結城さんこそ眠そうですけど昨夜は部屋に帰らなかったんですか?」 「うん、いろいろとやることがあってね。仮眠はとったけど彦星と織姫の様子も気になってよく眠れなかったんだ。」 「そうだ、昨夜は本州は七夕でしたよね。この辺りは曇ってて星が全然見えなかったけど、七夕だった地域はどうだったんでしょう?」 「今年は綺麗に見えた所が多かったようだよ。」 「じゃあ、2人は無事に会えたんだ。よかった。でも北海道は殆どが8月に七夕をやりますよね。どうして本州と違うんだろう?」 「新暦に合わせて月遅れでやるからだよ。」 「へぇ~、そうなんですね。と言うことは彦星と織姫が会えるチャンスは年に一度じゃなく、実は二度あるんですか?」 「そういうことになるかな。何にせよ会いたい人に会えるのは喜ばしいことだね。」
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