15人が本棚に入れています
本棚に追加
風見さんから説明を受けながら館内をひと回りして再び展示ホールに戻ると、まだ春休み中の小学生の集団や親子連れ、観光客らしきたくさんの来館者で賑わっていた。
「あ、理世ちゃーん。」
その声に風見さんが明らかに表情を曇らせた。
出入口の方を見ると青いつなぎを着た背の高い男性が大きく手を振りながらこちらへ歩いてくる。
男性は嬉々として僕達の前に立つと今にも風見さんを抱きしめそうな勢いで言った。
「こんな所で会えるなんて俺達はやっぱり赤い糸で結ばれてるんだね♪」
「私、赤い糸のお話は信じてませんので。」
「またまたぁ。照れてる理世ちゃんもカワイイなぁ。」
「照れてませんっ!それに名前で呼ぶのはやめて下さい!」
「わかった、名前で呼ぶのは2人きりの時だけにする。」
「2人きりの時なんてありませんからっ!」
目を釣り上げた風見さんを楽しげに眺めてから、彼は僕を見た。
「お前が新人か?」
「は、はい。椎名 航平です。よろしくお願いします。」
「おうっ!俺は田畑 耕作だ。田んぼの田に田畑の畑、それから耕作するの耕作だ。めっちゃファーマーな感じでカッコいい名前だろ?」」
それじゃ漢字の説明になってないと思ったが、とりあえず「はぁ。」と返した。
耕作さんは満足気にニッと笑い、柳眉を寄せた風見さんにしれっとして聞く。
「柊、どこにいるか知ってる?」
「観察室でデータ取ってます。」
「そっか、ありがと。」
耕作さんは勝手知ったると言うように階段の方へすたすたと歩いていった。
風見さんがその背中に向かって声を尖らせた。
「結城さんは忙しいんですからあまり邪魔しないであげて下さいねっ!」
振り返った耕作さんは真剣な眼差しで風見さんを見つめた。
「理世ちゃんが俺とデートしてくれるなら邪魔しないけど?」
風見さんは一瞬口ごもり、そして。
「・・・邪魔していいです。」
そんなに嫌なんだ。
僕は思わず苦笑した。
「あー、残念。じゃ、遠慮なく。」
耕作さんは悲しそうに呟き階段を上っていった。
「あの人はどういう方なんですか?」
僕が質問すると風見さんは目を閉じてこめかみを押さえながら教えてくれた。
「近くの農場で働いてる人なんだけど結城さんと仲がいいもんだから毎日毎日、毎日毎日毎日毎日来るのよ。あー、もう!また頭が痛くなってきた・・・。」
風見さんもいろいろと大変そうだなと思った。
最初のコメントを投稿しよう!