終わりを視る

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ふらふらと森の奥へと男は歩いていた。これといった行き先などない。 死んでしまおうかとさえ思っていた。 銀、という女が死んでから、己の心にも行く宛などない。 ざあっ、と風が鳴り、竹林が騒いだ。風に続いて、雨が降りかかる。 思い出すのは銀の長く黒い髪。白い肌。 のんびりと思い出に耽っている場合ではない。 雨が強くなるばかりで、竹林を急ぎ駆け抜ける。 身の丈六尺。これでも喧嘩では負けたことはないが、そんなことで銀が守れた訳ではない。 大木の下で一息ついた。 銀は業病で死んだ。薬師も早々に逃げるように――恐れるように家を去った。 死ぬ間際まで銀には色香があった。触れるなというので水を飲ませるばかりで、日に日に銀は弱って行った。 「北へ――行くといい」 不意に、そう銀が言ったのを覚えている。何かが憑いたようで、声音はいつもとは違った。 「死ぬと決まったわけじゃないだろう。いま家を出られるかよ」 「もう決まっております」 それから二日。銀は死んだ。 腑抜けたようにあれこれを済ませて、男は北へ向かった。 「何もありゃあしねえじゃねえか」
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