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狐の嫁入り
オオオォォという男たちの低い声と、女たちの鳴らす鈴の音が長蛇に並んだ若者たちの引きずるような足音に混じり合っていた。
彼らは白い布を頭から被り、顔を見せないようにしていた。
先頭で一際綺麗な素材の布を纏った花嫁と思われる女は、自らの足を汚すことなく担がれ、ある光の指す場所に降ろされる。するとたちまち霧のような雨が降り始め、女を濡らした。布を脱ぎ捨て一糸纏わず姿で雨粒を髪飾りにすると光が乱舞し、より一層の光に包まれた。
この村での伝統的な婚儀を傍観している妙齢の女がいた。
「女ってのは結婚だとか、花嫁だとかそういうのが夢とか言ってるが……玉もそういうのあるのか?」
女の隣で同じくらいの歳の青年が言った。名前は王という。王様の王だ。
この村には人間は存在しない。暮らしているのは妖狐だ。男も女も皆同じ顔をしている。薄い眉、キリッと上がった目尻、つんとした鼻を持っていた。もちろん男は男、女は女の顔や体を持っているが。人間と全く違う点はキツネの耳、尾が生えていると言うと説明が早いだろう。
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