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「ねぇ、そっちに行ってもいい?」
喜ぶその子はそう言った。けれど僕は、その言葉を否定する。
「ダメだよ。来ちゃダメ」
「どうして?」、とその子は言った。あめ玉を手に、一歩、一歩とこちらへ近づいてくるその子は、どこか不安の色に染まっている。
「ダメだよ。来ちゃ、ダメ」
もう一度、僕は言った。言いながら、一歩、一歩と退いていく。
「君はまだこちらに来てはいけない。こちらに来れるのは特定条件を満たした者だけだから」
「じゃあその条件を満たせば、私もそっちへ行ける……?」
「行ける。けれど、僕はそれを望まない」
ぴたり、とその子の足が停止した。仮面を着けているのに、どうしてか今にも泣き出しそうな顔が想像出来てしまう。
いけない。これではいけない。
僕は踵を返し、鳥居に、その子に、背を向ける。
「君はまだ生きて──」
そうしてまたここで会おう。
約束したのは拙く短い
一人の死者の願い事──。
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