エピローグ

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 バルモア南部の港は、今日も穏やかだった。    他船よりひと際優雅さを感じさせる帆船が、桟橋の隅に泊められていた。  そのマストの先端に掲げられた旗が青空に溶け込み、風になびく。旗にはラルクの頭文字が書かれていた。 「ほら、見てよ。ラルク号の旗だよ」 念願の自分の船を手に入れたラルクは、マストの下で満面の笑みを湛えていた。隣に立つギムリがふん、と鼻息を吹きながら言う。 「ああ、まあまあだ」 「まあまあ? 最高の間違いでしょ」 「本音を言わせてもらえばな、船が気に食わねえ」 「どうして? 大きさはインバース号と同じくらいだけれど、造りはいいし、設備はあるし、すごくいいじゃない」 「そうじゃない。アウレスに譲ってもらっただなんて、聞こえが情けねえ」  三檣三帆の「名前のない完璧な船」は、バルモアの東の港に泊めてあったため、無傷で残っていた。  勝利の証が欲しいとアウレスにねだると、譲渡の提案がなされ、ラルクは喜んでもらい受けたのだ。 「聞こえ? 勝利に変わりないんだし、別にいいじゃない。お陰で船舶証明書だってもらえたんだ。ぶんどるより得だよ」  ラルクの名が入った証明書を広げてみせても、ギムリは口をへの字にしたままだ。 「ふん、そんなもん、なくても生きていける」 「そうだけど、これがあればどこの港にも寄れるよ」 「そうかい」  ギムリの反応にいくらか不満ではあったが、船を手に入れた喜びの方が大きいラルクは気にしないことにした。 「とにかく、オレの船だからね」 「船主になったところで、インバースの頭はまだこのギムリ様だ」 「でも、船主の方が偉いんだよ」  ラルクとギムリは額をぶつけあって、睨み合った。  そしてふっと力を抜き、顔を緩める。がははは、とギムリが笑えば、ラルクもへへへと笑った。 「こんな所でいがみ合っているより、人を集めないとなあ」 「そうだよ。二人だけじゃ、いつまでも出港出来ないもんね」 「ゲンとカジはどうだ?」 「ハーベイさんが漁船に乗る事になったからって、同じ船に乗っているよ」 「ふむ、ハーベイに先を越されたか。海賊として素質があったんだがな」 「そこのあなた、インバースの一員になりませんかって、呼びかけしてみようかな」 「無駄だ。そんなことで寄ってくるような奴は、三日ともたん」  ラルクは残念そうな顔をして、はためく旗を見上げながら大きく伸びをした。 「これでフォーシャイアに行けると思ったのに……ああ、早く海に出たい!」      無事に陸に戻ることを祈りつつ  数多の船は海へと繰り出す 今日もまた       ―完―
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