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ラルクたちがミンナラに向けて出発した日、アウレスは部下を引き連れて船に戻った。何より先に、留守を任せた水夫長に尋ねる。
「留守中、何事もなかったか」
「はい。浮浪児が潜り込みましたが、何も盗られることなく、追い出しました」
「浮浪児? 見張りは何をしていた」
「いえ、ちゃんと見張らせていました。ただ、海から錨鎖を伝って登ってきたようで、気付くのが遅れました」
そこに引っ掛かりを覚えた。荷運びの際、船員が渡し板を出入りする時に紛れた方が入り込むのは容易い。
そこまでして潜り込むのには、理由があったはずだ。
「その子供は、どんな見かけだった」
「ええと、7,8歳くらいの、トーリア系の少年だったかと」
「その少年は、どこをうろついていた?」
その返事を聞いて、アウレスは船長室へ向かった。
室内は荒らされておらず、最後に見た時のままであった。金庫が無事なら問題ないとする者と同目線では、核心には迫れない。
部屋の中央に立ち、部屋を見回す。
(この部屋に入って、何を考えた?)
机の側に歩み寄る。金庫以外では、そこにしか物がないからだ。引き出しにある物は、ここまで潜り込まなくとも船員の行き来する場で手に入る。
机の横の箱に目線を移す。同じ太さで丸められた紙面の数々。一つだけ、おざなりに丸められ、突っ込まれている。
「これを見たのか」
光の結晶の行方を記した、世界地図。船員は海図を使うため、これを手にすることはない。
ズボンのベルトバッグに手を入れ、光の結晶に触れた。アンカー諸島に次いで、この地で手に入れたもう一つは、片手で握ってようやく隠れるほど、大きい。
「侵入したのは、お前だったか」
虚空を睨みながら、ラルクの顔を思い出す。
大胆になっているのは、レリサディアの協力があるためだろう。
「大人しく引き下がっていれば良いものを」
取るに足らない相手だと思う一方で、これからバルモアに戻らねばならないのが、もどかしく思えてならなかった。
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