手がかり

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手がかり

 幾重もかかった雲が、空を濃い灰色に染め上げる。高い波が、生き物のようにうごめいている。  波間に浮かぶマスターピース号は、横倒しになりかけては戻り、を繰り返していた。  操舵輪を握るゲイルは、大時化から逃れようと、雨で視界の利かない外を窓越しに睨んでいた。機関をフル回転させて航行しているにも関わらず、非情な向かい風のせいでなかなか脱せない。足元の機関室から煙が上がり、顔をしかめながら、階下のミッチーに向けて声を上げた。 「実は、魚を焼いていました、と言ってくれ」 「はーい、じつは、さかなを……ええと、何だっけ?」 「いや、それはもういい、この煙、ヤバイ状況か?」 「うーん、はいきこう、閉まっているみたいです」 「排気口だって? 外から何か入り込んだのか」  横殴りの雨を見て、ゲイルは面倒くさそうに舌打ちをした。船内の部屋に繋がっている、伝声管に口を当てた。 「ラルク、ちょっと来てくれ、いい気分転換になるぞ」
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