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北の海域
濃霧に覆われ、海と空の分かれ目が曖昧になったような景色が何日も続いた。濡れた冷たい空気を味わいながら、マスターピース号は北の海を進む。
時折通り過ぎる岩山には、所々氷が被っており、寝そべるアザラシの群れも見かけた。
ラルクはゲイルと共に、舵輪の前で進行方向を睨んでいた。
羅針盤で方位を確かめるのは、ラルクの役目だ。
遠くはまだ霞んでおり、太陽の位置も確認出来ない。方位だけが頼りだった。
「おい、本当にこの方角で合っているんだよな?」
「うん、大丈夫。他の船と出くわさない、特別な航路だよ」
「海賊と一緒にするなよ、この船は逃げ隠れする必要ないんだ」
「インバース号だって、バルモア船以外には、普通にしていたよ」
ラルクが口を尖らせ、つべこべ言うと手伝わないよ、と示してみせる。ゲイルが渋々と言った顔で、ふんと鼻息を吹く。
こんなやり取りが何回か繰り返された。
遠方の霧が晴れ、左舷に蘚苔植物が生えた陸地が現れる。いそいそと望遠鏡で覗くと、湾になった場所に大型の船が泊まり、海に張り出すように四角い建屋が構えている。
知っている景色を見つけたラルクは、明るい声を上げた。
「やった、勘が当たってた」
「なに? 勘だって?」
ゲイルの返事は聞き流した。
ラルクは窓から顔を出し、寒風を浴びながら目を輝かせて陸を見る。
これで親父を助けられると、期待に胸が膨らんだ。
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