80人が本棚に入れています
本棚に追加
「鍋島ー。今日もお前の家行ってもいい?」
「あー、うん。……まあ大丈夫だと思いますよ」
一瞬朝起きたら既にいなかった友人の事が頭を過ったが、あちらから連絡が来ているわけでもない。
「じゃまたヤっちゃう?」
後一五分くらいで開店時間を迎える居酒屋の店内で、自分より頭二つは下にある高さから含みのある笑いを向けられる。
「昨日もしたじゃないですか」
「昨日は昨日、今日は今日だろ」
この欲に素直なバイト先の先輩、井伏から声をかけられたのは半年も前の事だった。
『鍋島って男とも寝てるだろ?俺ともヤろうよ』
正直男は智也としか関係が無かったので多少興味はあった。
だが自分から何か出会いを求めて行動をするのなら、寄ってくる女を相手にする方が楽だったので必然と男は智也だけだった。
客の中に智也よりも綺麗な男も居たし、あからさまに自分目当てで来ている男の客がいたりもしたが食指は動かなかった。
井伏だって今の今まではただのバイト先の先輩だった。
小柄な体格をしているが、鍋島よりも多く動き、先を見越して他のバイト達を動かす場面すらあった。
頼れる先輩に違いなかったが、最初からそのような目で見ていたわけではなかった。
言われて井伏を上から下まで眺め、首元に手を充てる。
『んっ』
いきなりの行動で驚いたのか、小さく声を漏らした井伏に抱くことが出来ると判断した。
『なんで分かったんですか?なんかオーラとか出てます?』
『んーなんとなく。鍋島に抱かれてみたかったから、鍋島が男と関係を持ってたらいいなーと思って言ってみた。そしたらたまたま当たったてだけ』
首元の鍋島の手を取り、指先を口に含み甘噛みをする。
その瞬間この場所がどこなのかという感覚が吹っ飛び、今この場ですぐに押し倒してやろうと鍋島は思い指先に力を入れた。
ところが先ほどまで範囲内にあった井伏の体は少し遠くに移動されてしまい、鍋島は苦虫を潰したような気持ちになった。
『慌てんなって。まだバイト中だろ?終わったら俺の家でな。それまで悶々としてろ青少年』
最初のコメントを投稿しよう!