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別段見られたからとて慌てるような関係でもないが、彼はどう思っただろうかと鍋島は開店準備をしながら思った。
大学に行けば智也に会うこともできたかもしれないが、今日はもともと行く予定もなかったのでゆっくりと身支度を整え今こうしてバイトに出てきている。
「つかさ寝顔しか見なかったから確証はないけど、俺智也君知ってるかもしれない」
「え?」
「いや、多分あっちは俺のこと知らないし俺も知ってるっていうか見ただけだけど……」
「どこでですか?」
「確かあれは……」
頭の片隅にある記憶を思い出そうとするように井伏は口元に手を当て自分の記憶を漁っているようだった。そうして智也を見かけた場所を思い出したらしく、言おうか言わまいか鍋島の顔をみて悩んでいる様子だった。
「いいから教えてください」
「うーん、一つ確認なんだけど鍋島と智也君は本当に付き合ってるわけじゃないんだよな?」
「えぇ。友達です。……体の関係はありますけど」
何故そんなことを訪ねるのかと疑問に思ったが、全て知られている間柄だ。鍋島は包み隠さず関係性を伝えた。
「ならいいか。俺が智也君を見たのはそういう嗜好の人間が集まるバーだよ。出会い目的で俺も行ったんだけど丁度店から出てくるとこだったから覚えてた」
「店……?」
「ま、智也君もお前みたいにいろいろな奴と関係を持ってたって事だな。そんな所まで似てて本当に仲のいい友人だこと」
からかうような井伏のその声をどこか耳障りに感じながら、思考がまとまらないまま鍋島は開店を迎えた居酒屋の対応に追われるのだった。
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