気付いた時には

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 渋々と立ち上がり、静雄のマンションを出て駅までの道を歩き出す。  電源を落としたままだった携帯電話の電源を入れると、タイミングよく着信が来たところだった。  出ようとしたが画面には鍋島の名が映し出されている。出ようか悩んでいると着信は切れ、暗いディスプレイに自分の顔が映っていた。 「タイミングが良いんだか悪いんだか……」  鍋島に会いたくなくて大学にも家にも寄り付かなかったというのに、電源を入れた途端電話をかけてくるとはどれほどタイミングが良いのだろうか。  笑いながら電源が入っていない間の着信を確認すると、そこにはすべて同じ名前が映し出されていた。 「は?」  そして再び流れる着信の音に意を決した智也は一度深呼吸をしてから通話に出た。 「はい……」 「やっとでたな。今どこだ」 「今は……どこだろここ。よくわかんない」 「大学にも家にも帰ってこないでいったい何やってるんだよ」 「アハハ……」  呆れたような声で電話口から聞こえる声は、数日会っていなかったが忘れるはずもない友人の声だった。 「大学も来ないで家にも来ないで、随分楽しんでたみたいだな」 「……え?」 「淫乱クソビッチに俺もはめてやるからさっさと俺の家に来い」  それだけ言うと鍋島は通話を切ってしまった。  今まで鍋島に智也の交友関係の事で何か言われたことはなかった。  鍋島以外の男とも関係を持っていたが、それを伝えたこともなかったし今回の様に何度も出るまで電話を掛けられたこともなかった。  智也もそうだが、鍋島にも何か変化があったらしいことは確かだった。  その変化が知りたくて、知ったらもう今のような状態に戻れなくなる可能性もあったが、智也は駅に着くと大学へ向かう電車ではなく鍋島の家へと向かう電車へ乗り込んだのだった。
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