気付いた時には

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「入れ」 「久しぶり……」  こんな緊張して鍋島のもとを訪ねるのは初めてだった。  顔を合わせた時から鍋島が不機嫌なことは分かっていたが、何か間違った発言をすれば投げ飛ばされそうな雰囲気も醸し出している。  リビングに通されたが、先日見た光景が忘れられずソファではなく、キッチン側のテーブルの椅子に腰かけた。  その様子を無言で眺めていた鍋島は、ソファに下ろしていた腰を上げると智也と同じようにキッチンのテーブルの椅子に座った。  もともとは鍋島家が食事をとっていたこのテーブルは全部で六脚の椅子がある。にもかかわらず、鍋島は智也のすぐ横に腰を下ろした。  どちらも何も口にしないまま五分が経とうとした頃、部屋中に聞こえるであろう大きなため息を鍋島が吐くと、足の間で組んでいた智也の右手を持ち上げた。 「今から俺が言うことをよく聞け」 「う、うん……」 「俺は女が好きだ。人並みに結婚したい気持ちも、子供が欲しいって気持ちもある。だから結婚は絶対にする」 「……俺はどうだろ。しないかも」  女と子供を作ることよりも、男に抱かれる未来の方が容易に想像でき智也はそう答えた。 「智也も知っての通り俺は誠実って言葉とはかけ離れた男だ。多分それは結婚しても変わらない。……お前も気づいただろうけどお前以外の男とも寝てる」 「うん……」  あの朝見た鍋島の半分くらいの細さの華奢な男を思い出し、智也の胸を鋭く射抜いた。 「俺はお前が俺以外の男とも寝ていることを一昨日まで知らなかった。勝手な話かもしれないが俺だけだと思ってた」 「ハハハ、それを鍋島が言う?」 「本当にな。自分で自分に呆れてる」 「鍋島が変な事教えてくれたおかげで、今じゃ立派な色狂いだよ」  最初の内は鍋島だけで満足できていたが、鍋島に抱かれるにつれて暇さえあれば抱かれたいと、あの快楽を味わいたいと思うようになっていた。  その時常に鍋島が相手になってくれれば問題は無かったが、実際にはそうはいかなかった。
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