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鍋島が他の人間とも体を重ねている事など重々承知していた筈だったが、この光景は自分で思っている以上に智也にダメージを与えているらしかった。
心臓が破裂するんじゃないかというくらいにドクドクと大きな音を立て、その音が静まりかえった早朝のリビングに響き渡っているように感じられた。
自分の心臓の音で二人が起きてしまう前に早くここを去らなくてはと、冷え切った手足をゆっくりと動かし二階の鍋島の自室に戻る。
生憎昨日来ていた服はリビングや廊下に散乱したままなので、泊まった時の為に何枚か置いてある服をクローゼットから取り出すと急いで着込んだ。
財布と携帯電話とキーケースがあることを確認し、先程と違って足音を立てぬよう慎重に階段を下り鍋島家を後にした。
鍋島家を出ると全速力で自宅へと走り、朝食の用意をしている母親に挨拶を済ませ自室のドアを閉めると漸く落ち着くことが出来た。
鍋島の事は好きだがそういう好きではなかったはずだと自らに問いかける。
行き過ぎた関係かもしれないが大切な友人であり、欲望を解消するパートナーであり昔馴染みだ。
ではこの有様は何だろうか。先ほどまで女に突っ込んでいたものを自らに突き入れられてもなんとも思わなかったが、事後の光景を目にしただけでここまで動揺してしまっている。
男だから?男は自分だけだとなぜ思っていた?
智也自身も知らないどこかで鍋島に対し独占欲が生まれているらしく、だからこそここまで衝撃を受け動揺している。
いつから、一体いつから自分は鍋島に対し名も付けれぬ感情を抱いていたのだろうか。
これ以上考えてしまってはもう鍋島と顔を会わせることが出来ないと判断した智也は、動揺した心をどうにか落ち着かせると母親が用意している朝食を食べに一階へと下りて行ったのだった。
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