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放課後に藤川君に会ってから、理沙は一つ、小さな野望を抱いた。
(藤川君に文化祭でダンスをみて欲しいな。)
体育館での発表を観に来るのは、例年、生徒の半数位だ。単純に考えれば、藤川君が観に来るのは、二分の一の確率ということになる。
「藤川君は、文化祭の当日は何を見ようと思ってるの?」
理沙は後ろを振り返って、藤川君に聞いてみた。
「僕は文化祭実行委員だから。決められた見回りのルートで、色々見て回ることになるとおもうけど。」
藤川君は理沙を見て、答えた。この前、衣装を直しているところを見てから、
(藤川君は少し優しくなった)
と理沙は思う。
(藤川君は、もともと優しい。だけど、そう。ちょっと仲良くなれた感じだ。)
「じゃあ、ダンス部の発表は? 観に来られる?」
理沙は思い切って聞いてみた。
「それは難しいかな。体育館発表は人気があるから、その時間の体育館の見回りは争奪戦なんだよ。多分、くじ引き。」
理沙はガッカリした。すごく一生懸命練習してきた。衣装もあと少しで完成だ。
それは藤川君のためじゃないけれど……。
「残念。観て欲しかったなあ……。」
理沙は思わず、本音をもらしてしまった。いつもなら悲しい顔は見せないように、そうなんだ、といって前を向く所だけれど、ガッカリ過ぎた。
一方、あからさまにガックリと肩を落とした理沙を見て、藤川は「そうだったのか!」と妙に納得していた。
「そうかあ。西川は文化祭の衣装、一生懸命作っていたもんな。あれ、ネコなんだろ? ネコっぽい耳とかシッポとかあったし。」
「うん。」
理沙はコックリと頷いた。
「だからこの前、ネコ派かイヌ派かって聞いたんだろ?」
(違うけど?)
理沙は何を言われているのか分からず、藤川をじっと見つめた。
理沙のネコのようなで瞳見つめられて、藤川はちょっとたじろいだ。
「だからさ。アンケートだったんだろ? ネコ好きが多かったら、ネコのダンスも受けるんじゃないかと思っていたから、僕がイヌ派だって聞いてガッカリしたんだ!」
そうだろ、とちょっとドヤ顔をする。藤川はようやく原因と結果が結びついた、という満足感で笑った。
理沙は全然違う、と思ったが、それよりも気になる事があった。
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