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文化祭の日、体育館ではもうすぐダンス部の発表が始まる。
藤川はやっぱりくじ引きで負けてしまった。本来ならば、ダンス部の発表は見られない。でも西川に観に行くと約束した。
イヌタイプの藤川にとって、約束は絶対だ。見回りのコースを変更して、体育館の一番後ろから、体育館に作られた舞台を観る。
暗く照明を落とした状態から、音楽が鳴り始めた。スポットライトが舞台を照らすと、ネコの衣装の少女達が、踊り出した。
かわいくて、元気で、妖艶だ。練習を積んできたせいで、振付もきれいにそろっている。ここが高校の体育館とは思えないほど迫力あるダンスだ。
毎日、遅くまで直していた衣装も間に合ったみたいだ。手首に付けられた鈴がシャンシャン鳴っている。腰のあたりに付いていたシッポも、おしりの上の方に付け直されている。
理沙は笑顔で舞台を跳ね回っていた。長いシッポを振り回し、よく動くネコの目で観客を魅了していた。
そう。
舞台を観ている、藤川の心も。
藤川の心臓がバクバクする。
ネコ耳を付けた理沙が、藤川に気が付いた。理沙の笑顔がはじける。
藤川が完全に恋に落ちていたことに気が付くには、ダンス一小節分の時間があれば充分だった。
理沙がネコの衣装で踊る姿から目が離せなくなる。
(西川理沙は、ネコだな。)
ふっと藤川は思った。
(僕はイヌだな、タイプでいうと。)
イヌとネコ。あまり相性はよくなさそうではある。
藤川は舞台を観ながら、笑いだしていた。
(君がネコ好きのネコタイプだったとしても構わない。僕はイヌタイプだから、追跡するのは得意だし、根気強いんだ。)
藤川は理沙に手を振った。
理沙はウォーキングしながら、シッポを振って答えてくれた。
藤川も理沙もまだ知らない。
ネコとイヌがお互いのシッポを追いかけてくるくる回っているみたいに、自分達が追う者と追われる者の立場をクルクル入れかえて、追いかけっこを始めたことに。
さて、藤川と理沙はいつ気が付くのだろう?
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