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ネコ耳にネコのしっぽ。今年のダンス部は、文化祭でネコの衣装で踊る予定だ。
理沙のネコっぽい瞳は、ネコの衣装によく似合っている。仮縫いの衣装を着て、鏡に映った自分に向かって、理沙はネコポーズを決めてみる。学校のジャージでネコポーズを取っている時とは全然違う。衣装を着ると、否応なしに気分が上がった。
周りのメンバーの子達も、キャアキャア華やいだ声を上げて、ダンスの振付をワンフレーズ踊ったりしている。
「理沙はネコ派でしょ?」
と美南に聞かれた。
ネコ派かイヌ派かと皆で話していたところだったらしい。
理沙はドキッとした。
少し前だったら、理沙は間違いなく「うん。ネコ派だよ。」って即答していた。
でも今は、ちょっと迷ってしまう。
気まぐれで自由。丸くなったり細くなったりする瞳。ピョンって飛び上がるところ。日向ぼっこが好きなところ。
理沙はネコは大好きだ。理沙自身もよく、ネコっぽいよね、と言われる。
「うん、ネコ派だよ。」
理沙は一瞬の後、笑顔で答えていた。
迷った理由は……、藤川君だ。今年、初めて同じクラスになった。それまでは理沙は藤川君の存在さえ知らなかった。
藤川君は理系の眼鏡男子だ。
理沙はダンスが大好きで活発だし、クラスでも華やかな方だ。理沙が付き合うなら、きっと茶髪でちょっと軽い、チャラ男だと思われている。
だから藤川君と理沙の組み合わせはない、ってクラスの皆は思っているだろう。でも本当は、理沙は藤川君が好きだった。
理系の眼鏡男子。理沙の好みのど真ん中だった。でもそれは藤川君に会うまで、理沙自身も気が付かなかった事だ。
クラス替えで新しいクラスになった時、理沙はもちろん、友達に囲まれて話していた。
少し遅れて、藤川君が教室のドアから入ってきた時、理沙はギュウッと胸をつかまれたような気がした。いや、気がしただけではなくて、実際にギュウッと体感した。
これまで理沙が恋する時は、いつも相手から好きって言われてからだった。だから理沙は一目惚れがあるなんて信じていなかった。
それなのに藤川君をひと目見た時から、理沙は恋に落ちてしまった。自分でも信じられないことに。
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