君はイヌ派

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 「ねえねえ。藤川君はイヌ派?ネコ派?」    次の日理沙は、藤川君に聞いてみた。藤川君の席は理沙の席の斜め後ろだ。前の席だと、背中をつつかないと話せないが、振り返ればすぐ話せるのが斜め後ろの席のいいところだ。  「何で?」  と藤川君は理沙に聞き返した。  (なんで? もしかしてただの会話の話題だと思ってもらえなかった? 実は藤川君の好みのタイプが知りたいのだと気付かれてしまったのかもしれない。)  「えーと、別に大した意味はないんだけど……。」  理沙は焦って口ごもった。  「藤川、ただの会話でしょー? 理沙を困らせるのやめなよ。」  と美南が助け船を出してくれた。  「私はねえ、やっぱりネコ派かな? ネコ飼ってるし。ほら、見て。この写真。茶トラのタイガルっていうんだよ。」  美南は愛用のiPhoneを出して、タイガルのカワイイ写真集を見せてくれる。  (美南……。助けてくれたのはありがたいんだけど、私は藤川君がネコ派かイヌ派か聞きたかったんだよ……。)  理沙はタイガルの写真をうわの空で見ながら、美南には、藤川君が好きだと打ち明けておけばよかったかな、と思った。もし理沙が藤川君が好きだと美南が知っていたら、きっとネコ派かイヌ派かを聞き出すのに協力してくれたはずだ。  美南は藤川君にも、iPhoneを見せている。  「かわいいね。」  藤川君は言った。  (かわいい! ネコをカワイイって、藤川君が言ったー!)  理沙は飛び上がりたい気持ちになった。  「うん、かわいいねー!」  理沙はブンブンと首を縦に振って、藤川君に笑顔を向けた。   藤川君は理沙と目が合うと下を向いてしまった。  「あー、でも僕はイヌ派だけど。」  藤川君は、次の授業の教科書を出しながら、ボソッとつぶやいた。  さっきの理沙の質問の返事。答えてくれて嬉しかったけど、理沙の心は雲の上から突き落とされた気ように急降下した。    「ふーん。そうなんだ。」  理沙は藤川君に悲しんでいる顔を見せたくなくて、クルリと前を向いた。  藤川君の斜め前の席のいいところは、前を向けば藤川君と顔を合わせなくてすむところだ。  理沙のしょぼんと落ちた肩を、藤川君が不思議そうに後ろから見ていたことには気が付かずに、理沙は思った。        
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