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居残りして作業をするメンバーは、毎日顔ぶれが違う。けれど女子が三人集まれば、教室の机を寄せただけのテーブルでも女子会だ。おしゃべりしながらの作業は意外にも楽しい。それに、おまけもある。
「アイス買ってきたよ!」
買い物に出ていた子がコンビニのビニール袋を手に戻ってきた。みんな手に持っていた針を針山にプツッと刺す。
そして一斉にアイスに手が伸びる。もう教室のエアコンはとっくに切れて、蒸し暑い。アイスを食べながらの休憩のひとときは、お楽しみタイムだ。
理沙がアイスを一口、パクリと口に入れた時、カラッと教室のドアが開いた。全員が一斉にドアの方を向く。
「おわっ。びっ、……くりした。」
藤川君はバッと向けられた女子の視線に驚いた顔をした。
「アイス食べてるんだ?」
と見たままを口にする。
「違うよー! 文化祭の衣装を直してるんだよ!」
理沙は思わず言ってしまったが、スプーンをくわえたままの反論は、説得力がないかな? と心配になった。
藤川君は机の上に広げられたままの布の山に視線を走らせると、うなずいた。
「お疲れっ。」
と笑って言った。
「でも楽しそうだね。」
「楽しいよねー!」
女子達の声が重なってハモった。理沙はケタケタ笑った。
「あっ、藤川君もアイス食べる?この辺、まだ食べてないよ。」
理沙がスプーンでカップからアイスをすくって差し出した。
「理沙、それ意味ないよ。スプーン舐めちゃってるじゃん。」
美樹が笑ってとめる。他の子達も笑っていた。
「いいよ。大丈夫。気にしないで。」
藤川もふっと表情を緩めた。
(西川がいるところには、いつも笑い声が聞こえる。それはちょっといいかもな。)
と自分の鞄を持ち上げながら思った。
「じゃ、がんばれよ。」
と言うと教室を後にした。笑ったせいで足取りが軽くなっていた。
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