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矢吹良介
最初にノートがなくなった。
筆箱も、教科書も、シューズも。
でも、学校は好きだった。
あの子がいたから。
ーーーーーーーー
その日は突然で、僕はただみんなと笑い合うあの子を眺めることしかできなかった。
「今日までありがとうございました。みんなと一緒に遊んだり、勉強したり、とっても楽しかった。いつかまた帰ってくるから、そのときは一緒に遊んでください」
「やよいちゃん、さよならー」
「またねー」
「元気でねー」
目に焼き付けるわけでもなく、涙を流すわけでもなく。
ただ、眺めていた。
ーーーーーーーー
それから僕は中学生になった。いじめもなくなり、少し暗いおとなしい子として目立たない毎日を過ごしていた。
陸上部でそこそこの成績を取るようになってからは、学業がほんの少しだけおろそかになっていたような気もする。
…そして、親に勧められるまま、塾に通うことになった。
あの衝撃は今でも忘れない。
「あの……この人…」
「あら、あなた弥生ちゃんのこと知ってるの?この子本当に勉強家よね~ここの塾内だと間違いなくトップよ」
「そう…なんですね…どこの中学なんですか?」
「上原だけど…知り合いじゃないの?」
「小学校が一緒で、…彼女転校しちゃったんで…その後は知らなくて…」
「ああ、そういえばそうだったわねぇ………ええと…これで終わりかな………はい、手続きは以上です。授業は明日からだから、今日はもう帰っていいけど、教室とか見ていく?」
「あ、じゃあ見たいです」
「…あれあれ。後ろから2列目の一番左。最上さん」
「…っ……うわ、全然変わってない…」
「彼女、発展クラスだから、月末試験で良い点取らないと同じクラスになれないわよ」
「え…いや、僕はそんなんじゃ…」
「頑張ってね」
「……はい」
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