空白

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脳が現実から置いていかれたようにぼーっとする。 目の前の男が楽しそうなことだけはとても浮き上がって見える。 私が頼んだこのドリンクはこの人が奢ってくれるのかな? 「可哀想…?」 色んな疑問があるのにオウム返しにしか音が出ない。 考えることが煩わしい。 私が言った意味と彼が言った意味は違う。 私はただ事実を述べただけ。 彼は同情して憐れんでいる。 「私のせいだけじゃ…ないですよね…」 「え?」 「ケイが可哀想なのは…私だけのせいじゃない…」 「…」 「あなただって、それだけ分かってて言わないんですね」 彼はそれはそれは大層な笑顔で言った。 「俺は彼の家族じゃないからね」 「友だちじゃないんですか?」 「友だちだから愛子ちゃんとお話してるんだけど」 「はぁ…?」 友だちの定義がますます分からなくなってきた。 当たり前だ。 私は友だちがいない。 「まあ、俺は身代わりなんてできないからね」 「…」 「愛子ちゃんだけがケイを救えるし、可哀想なままにもできるし、壊すこともできるってこと」 さらりととんでもないことをいう。 自分ができないからって願望を押し付けないでほしい。 それに他人に興味のない私に、大層なことはなにも出来ない。 労力は自分のためだけに使うべきだ。 「怖いこと、言いますね」 「俺は事実しか言ってないよ」 彼こそ何も望んでない。 時間が有り余ってる大学生の暇つぶしに使われた。 はっきり分かることはそれくらいだ。 私は頭が悪い。
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