終.白日夢

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終.白日夢

いつもは口を噤む天使ですが、この日はなぜか心の奥を口にしました。 「私が本当に天使で背中に羽が生えていたら、どこへだって飛んで行けるのにね。誰かを幸せにすることだってできたかもしれない。私は普通の見た目ではない、でも誰かの役に立つわけでもない。中途半端な人間なんだよ。欠陥だらけ、ほんと嫌になる。」 「じゃあ、やめよ、人間なんて。」 「え?」 急に辺りの音が全て消えたような気がしました。 「伽話の中の人魚姫は声を失ってまで人間との恋を叶えようとして、悲恋に終わり、海の泡になったらしいね。私は泡になって海に消えるつもりなんてない。天使に恋をして、天使に空へ連れて行ってもらうの。」 人魚姫の真っ青な瞳に真っ白な天使が映ります。 「二人だけの空の楽園へ連れて行ってね。好きだよ、白。愛してる。」 そう言った人魚姫は握っていた天使の手の甲に優しく唇を落としました。驚いた天使が瞬きをした次の瞬間には、もう人魚姫の姿は目の前から消えていました。 天使の瞳からは水宝玉のような大粒の涙がぽたぽたと零れ落ちました。天使はいままで誰からも、母親からでさえ『愛してる。』などと言われたことが無かったのです。 「私も好きだよ、碧。愛してる。」 大切に大切にそう呟いた天使は、地上へと身を落としました。 そこには青い桔梗の花たち、青い空、青い人魚姫と白い天使、それらを全て染め上げるように赤い海が広がるだけの光景がありました。 それだけでした。 二人には二人の幸せがあればそれだけで良いのでした。
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