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「な……何度か相談はした……ようなんですがどうにも取り合ってくれないとかで」
断られ続けた新聞勧誘をしているような中年男に杉山は至って冷静に話を進めた。
「では彼女の行動範囲を観察してストーカー男の素性を明らかにするというご依頼でよろしいでしょうか?」
「そ、そうなんです!出来ればお願いしたい!」
「かしこまりました。ではまず彼女の勤務先が分かる情報はありますか?」
「お、同じ会社なので、私の名刺でよければ」
「ああ、助かります」
杉山は丁寧に男から名刺を受け取った。
「当社ではこういう場合、調査対象のなるご本人様には普段通りの振る舞っていただくためにも本人に内密で行うことをお薦めしておりますが、いかがなさいますか?」
「彼女には内密で頼みます!!」
食い気味でそう答える中年男に杉山は確信した。
要は惚れた女に自分以外の男がいないかという事を調査してほしいといういわゆるストーカーからのストーカー調査だ。
「わかりました。では顔写真と全体像がわかる写真などはお持ちですか?」
「あ、はい、あります」
部下の写真を持ち歩く上司が世間一般的にいるとは思えないが、客の要望を汲み取ってこそ商売だ。杉山はいつもどおりに順応することにした。
男はビジネスバックから数枚の写真を渡すと、杉山の顔つきが変わった。
「……こちらの方のお名前は?」
「松永弥生と言います」
杉山が男から受け取った名刺には【課長補佐・小玉幸彦】と書かれていた。
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