小玉幸彦

2/5
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
 低身長に冴えない容姿、マザコンでもあった小玉が四十歳を過ぎてなお母親からの手作り弁当を持参していた事が女子社員の目に留まり、小玉は違う意味で社内の有名人だった。 本人は気付いておらず愛妻ならぬ、マザコン弁当は昨年まで続いた。  いつものようにダラダラと残業した小玉は会社フロアを施錠し、重い足取りで家路に着く。  花の金曜日。時刻は九時を過ぎ、駅へ向かう並びの店からは賑やかな宴の声や威勢のいい店員の声が飛び交う。 反対通路には飲み屋へ向かう若い学生グループや、腕を組みながら歩くカップルが余計に街を煩くさせている。  公務員だった厳格な父が死んで十年。 一人っ子である小玉は実家で母親と二人暮らをしている。会社から片道一時間、電車に揺られ駅に降りると、人気は一気にまばらになり、そこから徒歩で六分。 古い住宅地は子供らが独立し、都市開発の進んだ近郊付近へお洒落で小さな家を立て昨今ではすっかり年寄りばかりの集落になってしまった。 家路にうるさく吠える雑種犬を除けば、本当に閑静な住宅街だ。  四十三歳を迎え、不器用ながらに仕事をしてきた小玉はプライドが高く冴えない見た目もあり、過去に見合いによる結婚経験もあるが過度な亭主関白に加え姑との関係がこじれ嫁は半年足らずで家を出て行った。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!