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「母さん、ご飯食べたの?」
聞こえていないのか、返事はない。
弁当を平らげると現実から逃避するように二階の自室へ引きこもった。そしていつものように熱く燃えたぎる弥生との行為を恋しく思い馳せていた。
社内でどんなに疎外されても残る課長補佐という肩書きすら小玉は縋ってその立場を確立し続けたかった。そこにしか彼の立っていられる居場所はなかった。
スマートフォンを眺めて、弥生のアドレスを開く。
電話をかけたいメールを送りたい。出来ないとわかっていても煌々と照らす画面を見つめながら仕方なく簡素なやりとりをしたメールを読み返すだけだった。
小玉の中にはいつも弥生がいた。
美しく、気高い。品のある仕草で優しく俺を包み込む肌。俺にしか見せないいやらしく蕩けた瞳。弥生の吸い付くような太腿に触りたい。
結婚をしても子供を作らないのは夫婦関係が既に破綻しているからであり、彼女は間違いなく俺を求めている。しかし優しい彼女は旦那を捨てられないのだ。
何度通話の発信ボタンを押そうとしただろう、何度メールを打っては消去したのだろう、小玉には弥生が欲しくて欲しくたまらなかった。
弥生だけが自分の理解者だった。既婚者で一回り年下である彼女に対して男である自分が不倫関係を願望している。そんな情けない話、小玉の小さなプライドが許さなかった。
小玉がもっと若くして出世し、見た目が良ければその考えは変わっていたのかもしれない。
そう思う度に小玉の脳裏には大和田課長の顔が浮かび、眉間に皺を寄せる。
劣等感に苛まれ、スマホを取り出す。
弥生、弥生、弥生、弥生、弥生弥生弥生弥生弥生弥生弥生弥生弥生弥生弥生???
脈打つ鼓動が指先を震わせ、その衝動に感けて通話ボタンに手を伸ばしたその時。
ガダーン―???。
何かが大きく倒れる音がして小玉はビクっと身体を震わせた
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