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ニュースをつけると決まった時間の天気予報をチェックし、その後はダラダラと流れる時事問題やスポーツニュースをBGM感覚で聞いていた。
エンタメ情報になり週刊誌に不倫をリークされた有名俳優が囲み取材を受けている。朝のゴールデンタイムに丁寧な大型ボードまで準備され、妻の会見付きで解説されていた。
弥生は着替える手を休めることなくぼんやりと眺めていた。
――夫が世間を騒がせてしまい、関係者の皆様には大変ご迷惑をお掛けしました。今後のことは子供のこともありますので、二人でよく話し合って……
不倫俳優の女優妻は顔をハンカチで押さえながら堪えきれぬ涙を拭うたびに浴びせられるシャッター音とフラッシュに顔を照らされ続けていた。
弥生はテレビを消し、静かになった室内に小さなため息を漏らした。
「調査の結果ですが、ご主人は浮気されています」
結婚二年目から、康介には不特定多数の女性と交流がある。
「現場の写真も抑えてあります。こちらです。調停になっても問題なく離婚できるでしょう」
刑事ドラマでよく見るようなホテルに入る直前のカップル写真が数枚テーブルの上に置かれた。長い髪をした女性はおそらく弥生よりも若く、スラリとした長身の女性だった。その女性に優しく微笑む男性は間違いなく自分の夫だった。
「離婚……?」
弥生は一部の口コミサイトで有名な腕のいい探偵事務所へ調査依頼をかけていた。
個人事務所と構えているそこは、杉山という五十代くらいの男性が一人で運営している事務所だった。
十二畳ほどの広いフロアがあるようだが、仕切りがされていて奥が見えない。その手前にある打ち合わせスペースで弥生は写真を手に取っていた。
事務員もいない静かなフロアでとりあえず出した冷えた缶コーヒーが暖房で汗をかいていた。
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