ひと夏の思い出

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 その結果、いつしか克明は早朝自習をサボるようになり、自分が住んでいるマンションから坂道を下って、吉田橋という巨大な赤い橋を渡ってからバス停の方に行かずに、狭い石橋を通って、日陰になっている川岸のところで背負っていたリュックサックを枕にして、仰向けになって、川のせせらぎを聞きながら、休憩するのが習慣になっている。  今日もいつも通り仰向けになっている時、半そでの灰色のTシャツに青のミニスカートを着たショートヘアーの高宮玲が吉田橋から身をかがんで、克明の方に向かって、大きな声で呼んでいた。 「お~い、そこのボサボサ頭く~ん!」  その呼び声が橋の方から聞こえてきたのだが、自分のことを言っているとは思っていなかったので、無視してゴロゴロしていた。すると、玲はお腹に力を入れて、周りに響くように思いっ切り叫んだ。 「君のことだよ、ボサボサ頭く~ん!」  これ以上叫ばれて、自分の住んでいるマンションに声が届くと、サボっているのがばれてしまうため、克明は頭をかきながら立ち上がって、玲の顔を見た。 「なんやねん! これ以上、叫ぶな!」  克明は怒っていたつもりであったが、玲は自分に返事をしてくれたと思って、橋の手すりにしがみついてジャンプをした。 「やっと返事してくれた! 今からそこにいくから、待っててね、ボサボサ頭くん!」 「だから、そのぼさぼさ頭という名前はやめてくれや……」     
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