ひと夏の思い出

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ひと夏の思い出

セミの鳴き声が周りから、合唱のように鳴り響いている八月の終わりの夏。小学六年生のボサボサ頭の石井克明はいつものサボリスポットに向かっていく。  克明は仲のいい友達がたくさんいる地元の公立の中学校に進学したかった。 しかし、克明の家族が全員、私立の中高一貫校に通っていたので、その流れと親の願いに逆らえずに、四年生のころから、同じ大阪でも田舎の方であるところから、学習塾のある十三という都会まで、阪急電車に揺られながら通っていた。  そして、六年生の夏休み。 同級生が小学校最後の夏休みということで精一杯遊んでいるのだが、克明にとってはほぼ毎日、一日の半分を塾に閉じ込められて勉強させられるという地獄の日々である。 八月の上旬までは、克明が通っていた小学校の宿泊行事である「臨海学校」があるなど、中学受験のことを忘れてリフレッシュをする日もあったのだが、そのイベントが終わった後は休みなく家と塾の行き帰りを繰り返す日々を過ごしていた。     
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