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「わんわん、に会いたくて。ずっと気が狂いそう、だった。俺が迎えに行くの……きっとわんわん、待ってる。だって約束した、から」
「書記さま」
「なんて健気な」
「ううう……ぐすっ」
涙を浮かべる美形の切ない姿に、同情する親衛隊員たち。中にはもらい泣きする人もちらほら。
そしてついには
「はあ、分かりました。今回のことは大目に見ましょう。全く、貴方の熱意には負けましたよ」
「っ……ありが、と!」
隊長さんの言葉と書記さまの笑顔にワッと歓声をあげる隊員たち。
「再会出来て本当に良かったですね」
「僕らも頑張ったかいがありました」
「わんわん、大事にしてあげてくださいね」
と口々に喜び合う彼ら。
感動の場面、涙まじりの笑顔、そして大団円だ。
ただ一人、俺を除いての話だけどな。
「いやだからあの、俺はわんわんじゃなくてですね、ぐえっ、は……苦し!」
もがく俺の悲鳴は周囲の笑い声に掻き消され、し、死ぬ。
「念願も叶ったことですし、そろそろ書記さまは生徒会室へ向かってくださいね。彼は親衛隊が責任を持ってお預かりしておきますから」
にっこりと微笑みながら告げる隊長さんに、俺は救いの神を見た!
「…………ヤ、だ」
「え」
「あの」
「書記さま?」
「へ」
「ヤだ、じゃありません。もう一度言いますよ、彼から離れて己の責務を全うしなさい。それが今回の条件だったでしょう」
一瞬で冷気を纏った隊長さんに、この場にいる全員が凍り付く。
背後の美形からもビクッと震えるのが伝わってきた。うん、やっぱ怖いんだね俺もです。
「ヤ、離れるの嫌。わんわん一緒、生徒会室行かない!」
「そんな我が儘、まさか本気で通るとは思ってませんよね。それに貴方が仕事をしない無責任な人間だと知ったら、彼も失望しますよ」
「え」
「……わんわん、失望する? 俺、嫌いになる?」
隊長さんの言葉に、泣きそうな顔で俺の目を覗き込む書記さま。
うっ、垂れた犬耳の幻が見える。
だからそのワンコみたいな反応は止めてください、思わず撫でたくなりますから。
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