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さて。
主にごつくてむさ苦しい男子達に追い回され振り切りながらどんどん人のいない方へと向かった、わんわん。
結果、気付いたら鬱蒼と生い茂る森の中で迷子になっていた。
まったくもって会長のせいである。
「何で学校の敷地内に、こんなバカみたいに深~い森があるんだよ! 普通に熊とか出そうなんですけど!?」
と元気いっぱい賑やかに喚くわんわん。
だが、それも最初のうちだけ。
日が沈み辺りが真っ暗になる頃には、不安と恐怖でうずくまり、動けなくなっていた。
ざわざわざわ
「……っ……!」
ガサガサッ
「ひっ!?」
グエーグエーぎゃぎゃぎゃ
「な、何今の何今の何今のぉぉ!?」
風や木々、小動物(?)などの発する物音に怯え、ひたすら目と耳を塞ぐわんわん。
いっそやみくもに走ってでも逃げ出したいところだが、先程それが原因で木の根っこに躓き足をくじいたばかりである。
その上、夜になれば寮の明かりを頼りに帰れるだろうとの期待は既に外れていた。
人間の身長を遥かに越す樹木達に視界を遮られ、月の光すらほとんど届かないのだ。
しかも今は五月。
日中はともかく夜はまだかなり肌寒い季節である。
暗闇と孤独への不安、体力を消耗させる気温の低下が、次第にわんわんを弱らせていくのだった。
***
「わんわん!」
「ひいぃ!? って、しょ……書記さま?」
いきなり覚えのある温もりに包まれ、驚くわんわん。
瞳を開くと、自分を強く抱きしめる書記さまがいた。
それから少し遅れてやって来たのは、額に汗をかき、ライト片手に息を切らす美形集団。
「おい馬鹿犬、あいつはいたか!?」
「ハァハァ、待ってよ会長ー……って、あ。わんわん君見つけたー!」
「ふぅ、わんわん君が無事で良かったです。怪我はありませんか?」
「さすが先輩、わんわん君の居場所を匂いだけで特定するなんて凄い特技ですね!」
「はぁふぅ、書記さま親衛隊員に連絡。書記さまが無事、わんわん君を保護。繰り返します……」
不思議に思う。
さっきまで孤独で真っ暗闇だった目の前が、暖かくて明るい華やかなものへと変化していく。
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