2 脚本 第1話分

2/31
前へ
/38ページ
次へ
 ジョシュ「やれ、『ウェンディゴ』」  無機質に指示する声と指先。同時にカレンの背後から迫る雪の塊のような衝撃波。  カレン「なッ!」  気付いたときには遅く、衝撃波はカレンとその馬に直撃する。カレンが起こした小爆発の十数倍の規模で地面を抉り、噴煙と白い粉雪とが立ちこめる。カレンの馬は地面に横たわり、動かない。カレンはそのまま森の中まで吹き飛ばされるが、追っ手の誰もその姿を見ていない。    一際高い大樹の上で、事の顛末を見ていた人影が一つ。くたびれたローブが風になびいている。腰には一本の刀。移動していく軍勢と未だ収まらない噴煙とを見比べて。  シオン「行くぞ」  叢雲『ああ』  腰の刀と一言だけ交わし、直ぐさまに樹上から一気に飛び降りる。  従者「命中しました」  ジョシュ「フン」  平野が見渡せる小高い丘。従者の声に応じて、指さした手をマントの中に引っ込めるジョシュ。豪奢な騎士装束がジャラリと鳴る。  ジョシュ「呆れたものだ。我らが陛下の勅命を蔑ろにしようとは。斯様な者が騎士の位を名乗ることこそ醜悪極まる、というものだな。況してや、私の手まで患わせるとは。ゆくゆくは〈王の騎士〉と成るであろうこのジョシュ=クレイトンの」  従者「左様でございますな」  ジョシュは平野に背を向け、背後に控える馬車へ進む。従者は振り返りつつ、怪訝な表情を浮かべる。  従者「追撃なさらないのですか?」  ジョシュ「当たり前だ。私の『ウェンディゴ』に食らいつかれた以上、例え生きていたとしても長くは無い。それに、この森には盗賊まで出るそうじゃ無いか。後はそいつらに任せるさ」  従者「かしこまりました、ご主人様。では、このまま?」  ジョシュ「ああ。出発だ」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加