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私が住んでいるアパートは、築十五年1DKのバス・トイレ別。
駅から徒歩五分。
新しい物件ではないけれど、リノベーションしたてで、格安の三万円。
三階建てで戸数は十五戸あるのだけれど、噂では、その半分以上が空き部屋らしい。
ま、近所付き合いとか殆どないから、本当かどうかなんて分らないけど。
とりあえず、安い、綺麗、便利の三拍子整っているのだから、私は満足していた。
でも、昨夜の事。
会社の飲み会で終電ギリギリになっちゃって。
駅から五分と言えど、やはり夜道は怖い。
自然と早まる足取り。
しかし、駅を出て、小さな路地に入った途端――――
“ハァハァハァハァ……”
すぐ後ろから聞こえる息遣い。
ビクリとなって小さく振り返るが、誰もいない。
更に足を早める。
“ハァハァハァハァ……”
やはり聞こえる。
見えない息遣いに怖くなり、一気に駆けだした。
ヒールを履いているので、走っているといえども、そこまで速い訳ではない。
向うが本気を出せば捕まる恐れだってある。
それでも必死に走り、アパートに辿り着くと、荒々しく階段を駆け上がった。
部屋の前までくると、慌てて鍵を取り出した。
急いで扉を開け、直ぐに部屋に入れる状態になった時、ようやく安堵感が押し寄せる。
階段を誰かが昇って来る様子もない。
ホッとして玄関に足を踏み入れたものの、やはり後ろが気になり振り返った。
「ハァハァハァ……おかえりぃ……」
耳元で誰かが囁いた。
温かく生々しく吐き出される息が、頭の真後ろから吹きかけられる。
そう――私の後をつけていた筈の誰かが、部屋の中に“いた”のだ。
足元から肌が粟立つのを感じ、慌てて部屋を出た。
そしてまた、駅まで走り、駅前のファミレスに駆けこんだ。
そのまま今に至る訳だけど……
あのアパートが、あんな好条件にも関わらず、空き部屋だらけだという理由が分った気がする。
それよりも。
私はこれからどうしようか?
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