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ビジネスホテルは空気が乾燥しやすいので、寝る時には浴槽に湯を張り、浴室の扉を開けて寝るのだが、その日はやたらと喉が乾燥し、咳こんで起きると、何故か大きく開いたままにしておいた筈の扉が、しっかり閉っている。
咳こみながらも、「どういう事だ??」と思い、浴室のドアに手をかけると、その瞬間、体がピクリとも動かなくなったんだ。
「え?」
一瞬で俺の頭の中はパニックになった。
「一体、どういう事だ? 動けよ!」
自分の意志に関係なく、体は全く動かないのにも関わらず、徐々に頭も神経も妙に冴えてくる。
そして首を動かす事が出来ないので、確認出来ないのだが……後ろに……ベッドの方から、何者かの視線を感じた。
勿論、「気配」も。
ズル……
ズルズルズル……
「あがががががががががががががが……」
ベッドから這い出るような音と共に、喉から絞り出すようね奇妙な声。
それが徐々に俺に近付いてくるのが気配で分かるのに、体は全く動かない。
“やめろ! くるな! こないでくれぇぇぇ!”
ズルリ……ズルズルズル……
ズルリ……
「あがががががががががががあががががががあが……」
ズルリズルズルズル……
ヒヤリとした感触が足に触れる。
“ひぃぃぃぃ!”
そして、体にも……
ペタリ……
ペタリ……
冷たいものが触る。
そう――――
ソレは俺の体をよじ登って来ている。
“見るな!”
そうは思えど、目を瞑る事すら出来ない。
そして、「あがががががががががががあ……」という奇妙な声は耳元まで近付き……顔が目の前まで来た。
「うわぁぁぁぁぁぁあ!」
その瞬間、俺は大きな声を上げたのだが、そこからの記憶がない。
朝、浴室の前で倒れ込んだままの姿で目が覚めたのだが、俺はその位置で室内を見て、ようやく、この部屋に“何かがある”事に気が付いた。
それは何故か?
ベッドの下に、何かが落ちているのが見えたんだ。
恐る恐るベッドに近付き、屈みこんで中に手を突っ込むと、落ちていた物は古びた「お札」
そして、ベッドの下を覗きこむと、そこにはびっしりとマットレスに貼られた何十枚……いや百枚以上はあるんじゃないかっていうくらいの「お札」の数々。
俺は、これからは絶対に、ホテルに入ったら、まずは隅々まで「安全確認」をしようと誓った。
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