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「先輩。この写真、俺が貰ってもいいっすか?」
「えっ?でも、それ……」
「知ってます、変な噂のことも」
先月、一年の岩田くんが亡くなった。自分の部屋のベランダから、飛び降りたらしい。
インフルエンザで学校を休んでいた時に飛び降りたことから、薬の副作用ではないかとの噂もある。そんな中、別の噂もあった。岩田くんは、清水先輩に連れて行かれたのではないかと。
何の接点もない二人の唯一の接点、岩田くんが撮った夕陽の写真。文化祭の初日、この写真の前で二人が何か話している姿を、沢山の人が目撃していた。そして、二人共夕方に転落死したという共通点。
「それ、お祓いとかした方がいいかも……」
「別に大丈夫っすよ。呪われた写真とか言われてるみたいすけど、文化祭で沢山の人がこの写真を見てるすよね?俺は関係ないと、思ってますけどね」
学年の終わりにの部室の片付けついでに、岩田くんの私物の整理もやってくれていた。まだ使える物は好きに使ってくれてもいいし、形見分けで好きな物を貰ってもいいと、岩田くんのご両親は言ってくださったと言う。それにしても、形見分けに曰く付きの写真を選ぶとは。友平くんは、豪胆なのか何なのか。
「そういえば、岩田が変なこと言ってたって、同じクラスの奴が言ってたな」
「変なことって?」
「『夕陽に向かって、飛びたくなる』とか何とか……」
「何それ?」
「岩田が転落死する前、歩道橋から飛び降りようとしたことがあったとか……」
「友平くん。何で今、そんな話、したの……?」
「さーせん。何でだろう?急に思い出して……」
『綺麗な夕陽を見ると、夕陽に向かって飛びたくなりませんか?』
「と……友平くん……今、何か……」
「何すか?あっ、これ、卒業した先輩達の私物じゃないっすか?どうします?捨てて構わないっすか?」
友平くんじゃない。友平くんは前にいる。声は後ろから聞こえた。
『沈んだ夕陽の先には、別の世界があるんですよ』
「別の、世界……?」
久しく聞いていなかったこの声に、何故か私は、返事をしていた。
『先輩も、こっちに来ませんか?』
声に誘われるようにゆっくり振り返ると、沈みかけの夕陽が辺りを赤く染める、美しい光景が目に入った。そっと手を伸ばすと、透明なガラスに阻まれた。この窓の外には、きっと別の世界が広がっているのだろう。
私は窓を開けると、窓枠に足をかけた。
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