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「おい、岩田!何やってんだ!?」
「へっ?」
気が付くと、両腕をガッチリ掴まれていた。
「いや、お前らこそ何だよ」
「何って……。お前、歩道橋から身を乗り出して、落ちかけてたんだぞ!」
「えっ!?まさか……」
両手に下げていたはずの袋がない。見ると、少し後ろに落ちていた。ほんの数歩だが、ここまで移動した記憶がない。
『君ならきっと、夕陽の先に行けると思ったのに』
さっきも聞こえた、鈴を振るような澄んだ声。清水先輩の声か?
「お前……大丈夫か?」
気が付くと、辺りは暗くなっていた。
「とりあえず、家に帰ろう」
「みんなで送るからさ」
その場に座って動かない俺を心配して、みんなが声をかけてくれた。
「俺……夕陽に、……清水先輩に、……誘われた」
みんなは困ったように顔を見合わせ、それでも、俺が立ち上がるのに手を貸してくれた。
「悪い、変なこと言った」
突然、歩道橋から身を乗り出し、おかしなことを口走った俺を、気味悪く思わない訳がない。
「文化祭で、清水先輩に夕陽の写真を褒めて貰ったこと、思い出してさ……」
「ごめん!俺が清水先輩の話したから……」
「たくっ、お前が悪い!」
「そうだ、古田のせいだ!」
清水先輩の話題を振った古田が、二人にバシバシ頭を叩かれていた。そんなごく当たり前の日常を見ていて、ようやく落ち着いてきた。
「別にいいよ。俺もさっきまで、忘れてたくらいだし」
「明日、学校来れるか?」
古田は責任感が強いようだ。まだ、気にしてくれている。
「当たり前だろ!パシリだけで終わってたまるか!」
「それもそうか」
「いや、もう仕事終わってっから、岩田は休んでいいぞ」
「ぜってぇ行ってやる!終業式休んでも、クリパは行ってやる!」
「終業式だりぃ」
「成績表要らねぇ」
馬鹿を言いながら、暗くなった道を歩いていると、さっきのは勉強疲れのせいで見た夢だと思えてきた。清水先輩には悪いけど、もう忘れようと思う。清水先輩も、夕陽の写真も。
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