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僕と彼女は部室の前を通り、校門まで向かう。
いつも通りの道を通っていると、その道中でとある話声が聞こえてきた。
「先生、どうしてですかっ!?」
「何がだ?」
「だから、どうして小南先輩が選ばれないんですかって事です!」
「ああ、そのことか。アイツはチームプレーには向かない、それだけだ」
「小南先輩は、チームプレーも上手いですっ! ……というか、先生っ。先生は今までちゃんと小南先輩のプレーを見たことありますか!?」
「は? まあ、いい。話は終わりだ。もう帰れ」
「ちょっと待ってください。……本当に、小南先輩がチームプレーに向かないから、落としたんですか?」
隣の彼女が震えているのが分かった。
そして泣きそうな、嬉しそうな、残念そうな、複雑そうな表情をしていた。
だが一方で、僕は拳を握り締め、手のひらの汗を滲ませていた。
この先は、この話の続きは聞かない方が良いかもしれないーーーそう思ったが、時既に遅し。
顧問の声が、僕と彼女の耳に入った。
「ーーーそんなわけないだろう? 単純に俺が、アイツのこと嫌いだからだよ。はっ」
ーーー瞬間、僕は、突然走り出していた。
自分の行動を不思議に思うよりも先に、納得がきた。そして自分を少しだけ誇らしく思った。
ここで行けなかったら、男じゃない。
少し行った所に、彼女の顧問が居た。
後ろから彼女が僕を追いかけて来ているのが分かった。
そうだ。こんなことなら、先に退部届を出しておくべきだったかもしれない。この後僕がやる行動で、仮にも大会停止処分なんかになったら、罪悪感でいっぱいになる。
そんな風な考えを持ちながらも、僕の行動は既に止まらない。止まるわけにはいかない。
違う。多分これから色々な人に迷惑をかける。きっと彼女にも迷惑をかけてしまう。だからこれは僕のわがままだ。
けれど、ここだけはどうしても、折れてはいけない気がした。
「こ、んの、くそ、顧問、が……っ!」
踏み出した足によって勢いをつけた僕の拳は、その顧問の顔面をたしかに捉えた。
ふぎゅぅあっ、と言う顧問の悲鳴を聞いてから、僕は自分のやってしまった行動に青ざめるのだった。
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