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その日は、午後から雨だった。
俺と彼女の待ち合わせ場所である、部室棟裏を少し行った所にある体育倉庫に僕が行くと、彼女は既にそこに居た。
「ど、どうしたの……そんなに濡れて?」
彼女は変だった。
雨が降っているというのに、手に持っている傘を差さずに、その場に立ち尽くしていた。
僕の言葉に彼女が顔を上げてこちらを向いてくる。
「あ……」
その表情の意味は知らない。
僕の知らない、彼女の顔。
その表情にどんな意味が込められているのかは、分からなかった。
ただ、何か、分かってしまった。
多分、そうなのだと、分かってしまった。
しかしそれを言ってしまうのは憚られた。
「か、える……?」
「うん。そうだね、帰ろうか」
どこかギクシャクした僕たち。
取り敢えず、今も雨に濡れ続けている彼女を、僕の傘で覆った。
「あ、傘……ご、ごめんっ」
突然、何かを思い出したかの様に、自分の傘をさし始める彼女の姿は、やはり変だった。
その後、暫く、僕たちは無言で歩いた。
「……」
ざざざっ、ざざざざざっ。
傘をうつ雨の音だけが、僕たちの間に響いていた。
気が付けば、僕は固く拳を握り締めていた。
手のひらには嫌な汗がじんわりと滲んていた。
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