もう少しで

9/14
前へ
/14ページ
次へ
彼女との待ち合わせ場所に行くと、ある日の様に彼女は、ぼうっと下を向いていた。 「小南」 はっ、と、彼女は顔を上げた。 その際、一瞬だけ見えた寂しげで苦しそうな表情は、僕の見間違いなんかではない。 「遅かったね、今日は」 「小南が早いんだよ。最近は、特に」 「うん、うん……そうだね」 彼女が待ち合わせに早い理由も何となく分かっている。けれどそれを明確に言葉にしてしまえば、この場から彼女が逃げ出してしまう気がした。 「……そうだ。部活のレギュラー、すごいね」 「え。あ。あ、うん」 「だけどさ、私。……私、私……ごめんね」 別に彼女が謝ることなんてないのだと思った。別にこれは、彼女が悪いわけではない。彼女は十分に、いや十分以上に限界を超えてまで頑張っていた。そのことを僕は知っている。 「やっぱり私……頑張ったけど、駄目だった」 あはは、なんて力無く笑う彼女に酷く胸が痛んだ。 この胸の痛みは、何だろうか。 僕と彼女はライバル。 僕と彼女は何となく一緒に帰っているだけの、ただの友人同士。 僕の一方的な片想い。 弱くて元気のない僕と強くて元気いっぱいの彼女。 ただ今は、関係性だとかそんなものは正直どうでも良くて。そんなものはゴミ箱にでも捨てとけって感じで。 「なんかさ、やっぱさ、部活なんてさ、やめとけばよかったかも……」 そんな言葉を言った彼女を、僕はどんな顔をして受け止めればいいのか分からなかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加