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彼女との待ち合わせ場所に行くと、ある日の様に彼女は、ぼうっと下を向いていた。
「小南」
はっ、と、彼女は顔を上げた。
その際、一瞬だけ見えた寂しげで苦しそうな表情は、僕の見間違いなんかではない。
「遅かったね、今日は」
「小南が早いんだよ。最近は、特に」
「うん、うん……そうだね」
彼女が待ち合わせに早い理由も何となく分かっている。けれどそれを明確に言葉にしてしまえば、この場から彼女が逃げ出してしまう気がした。
「……そうだ。部活のレギュラー、すごいね」
「え。あ。あ、うん」
「だけどさ、私。……私、私……ごめんね」
別に彼女が謝ることなんてないのだと思った。別にこれは、彼女が悪いわけではない。彼女は十分に、いや十分以上に限界を超えてまで頑張っていた。そのことを僕は知っている。
「やっぱり私……頑張ったけど、駄目だった」
あはは、なんて力無く笑う彼女に酷く胸が痛んだ。
この胸の痛みは、何だろうか。
僕と彼女はライバル。
僕と彼女は何となく一緒に帰っているだけの、ただの友人同士。
僕の一方的な片想い。
弱くて元気のない僕と強くて元気いっぱいの彼女。
ただ今は、関係性だとかそんなものは正直どうでも良くて。そんなものはゴミ箱にでも捨てとけって感じで。
「なんかさ、やっぱさ、部活なんてさ、やめとけばよかったかも……」
そんな言葉を言った彼女を、僕はどんな顔をして受け止めればいいのか分からなかった。
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