ある総理の活躍

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「ですから、何度も言っているでしょう、総理。この『解雇全面肯定』ともいえる法律を世に送り出したら、この日本は失業者と失望の渦ですよ。」  うるさいハエをはねのけるように、問われた男は答えた。 「分かりました。正直に答えます。あなたはバカです。」 「お答えになっていま、いませんよ。」  一人の議員は、あっけらかんとした世間知らずの総理に、口を尖らせ舌を噛みながら吠えた。 *** 「え~、なぜこのような法律案を立てたかといいますと、ですね。例えば私は年に、一般の日本国民つまり平均の給料のおよそ7,8倍はもらっているわけですが。」  質問に答えていないですよ、と野党の野次が飛ぶ。 「最後まで人の話を聞いたほうが、人間関係はマシになると思いますよ。それで……。」 「さっきから黙っていれば、こうも淡々と人の嫌味を言うものだな、総理。」  手を挙げたのは与党の重鎮。指名されていない中での突込みなので、当然これも野次に入る。それを言おうとするその総理と呼ばれる男を制するように、 「どうせまた、野次はイケませんよ。あなたは馬にでもなりたいのですか。なんて言うつもりだろうがな、言わせてもらうと。」 「言わせてもらうと?」 「えっ~うっふぅおん。そうだな。言わせてもらうと、そうだな……。」 「言うことが無いのならやめてもらえますか。野次はイケませんよ。あなたは馬にでもなりたいのですか。」  軽い言葉たちの中に、彼ー日本の内閣総理大臣の話術が光る。彼の言葉たちは自由で、厳しく、そして相手を黙らせる力がある。  そもそも、どうやって威厳のかけらも見えない、俗にいうチャラい男がこのポストに入ったのか。振り返ってみると、日本国民は浮かれていたみたいだった。
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