ある総理の活躍

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 彼はなんだかんだと、言いながら、そのルックスとその言葉を操ることで、若年層と高齢の雌を中心に「ファン」を増やしていった。  はて、と思っている間に、若造だという彼は、特にコネや金を使うことなくあっという間に茨城の枠で、無所属での衆議院議員となっていた。いつもなら出しゃばるテレビのコメンテーターも、田舎のおばさんも、やれ救世主だ、やれ天才だと逆に騒がしい。  よく思っていない民も、少なからずいた。中年層、親の世代。働き盛り。実際この層を狙わなくては、日本は動かないはずなのだが、選挙権を興味本位に使ってみたい青二才と、趣味のない老いぼれたちの意見が通るこの世の中。彼のその人たちへの補償は厚かった。  「選抜と推薦についての大学変革案」「就職活動についてのエトセトラ」「年金分金制度」「子育て献立」。今まで集めてきたネタを吐き出すかのように、次々と出した案はパッと見現実味を置いていて、人々は浮かれた。  勢いは止まらず、メディアに忘れられる前にアクションを起こす。与党の批判だけではなく、公約通りのお金がどこから出るかもわからない法案を、持ち前の口で、押し通していった。 一匹狼といえど、彼の目標は内閣総理大臣。その理由は誰にもわからなかったが、次々とコネ、相手の弱みを作っていく。おかしい、おかし過ぎるのだ。なんでこうも簡単に、誰もがあきらめるほどの小さな弱み、貸しを作っていくのか。だが評論家たちは言葉を詰まらせ、首をひねるばかり。  与党に、現実的では無いと言われていた総理大臣に指名されたのは、ある意味の必然だった。おそらく、開票後、人々は、学級代表を決めた感覚で、「ああ、あいつか。」と思ったに違いない。  あっけなく、彼の時代は、訪れた。
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