あの時の足は

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 先生が各テントに呼びかけて歩く。その頃にはみんな心地よい疲れを感じていた。  林間学校が用意したテントは、足場をブロックで固めてあって、地面より50センチほど高くされていた。地面のぬかるんだ土が入りにくいようになっていたのだ。  みんな持参した懐中電灯で、手元を照らしながら寝る準備をする。    自分たちだけの狭い空間はワクワクした。  寝袋に潜り込んで懐中電灯を消すと、人工的な照明がなくなった代わりに、月光がテントの幌を照らす。 「……ねえ、寝てる……?」  誰ともなく声が出る。  囁き声に笑い声も含まれて、見回りの先生に気付かれないように暫しの歓談。  その声を聞きながら、その日1日の出来事を頭の中で繰り返し思い出し、月明かりでうっすら光るテントの幌を眺めていた時だ。 「……雨降ってきた」  だれかが言った。  細かな雨が降る音が、たしかに聞こえる。 「ほら、雨だよ」  となりで寝ていた子がテントの端を押し上げて、細かな雨がふる地面を確認した。 「え……でも……」  言い淀んで、私はもう一度テントの上を見る。  月明かりは確かに幌を照らしていたのに。  山の天気は変わりやすいという。  こういうのも狐の嫁入りというのだろうか。  不思議な現象を自分でも見てみたくて、テントの端を押し上げる。     
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