能登の夏、接近遭遇の夏

4/19
前へ
/19ページ
次へ
 七尾市石崎(いっさき)町。海に面した漁師町である。その中程にあるシオリの家は、瓦屋根の二階建てだが、田舎の家らしくかなり大きい。到着するとすぐ彼女の母親のヤスコ伯母さんが出迎えてくれた。 「お久しぶりです、伯母さん」 「あっらー、カズヒコくん、えらい大人っぽくなったねぇ。まんで(とても)男前やぞいね」  この人の笑顔はシオリのそれに通じるものがある。てか、むしろシオリがこの人に似てきているのだ。昔はこの人もかなり美人だったらしいが、今では単なる田舎のおばちゃんである。  一応彼女にも伯父さんの様子を聞いたが、シオリの話と完璧に一致した。だとしたら俺はここにいる理由が全くない。の、だが…… 「今夜は和倉の花火大会やしぃ、シオリと一緒に見に行ったらどうや?」 「ええっ? そうなんですか」 「あれ、それに合わせて来たんでないがんけ?」 「いえ、知りませんでした」 「ほんな(そうなの)。もうね、この娘ぉ、今年浴衣新調してんのにぃ、花火行けんくなった言うてぇ、昨日まで泣いとってん。ほやけどぉ、カズヒコくんがおったら、あんたも行くやろ?」  伯母さんがシオリを見ると、彼女は恥ずかしそうな顔で小さくうなずく。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加