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⑦
「ここは‥‥外!?」
あっという間に外へ出てきていることに面食らうヒカル。
それに加えて先ほど自分たちが入っていた排水口の穴が、トッティがかろうじて入れる程度に小さくなっていた。
「あれ? ど、どうして?」
「おそらく“誰”かが“魔法”で創りだしたのよ。あの犬をあんな風にしたのもね」
「魔法? 魔女さん以外に魔法が使える人がいるの?」
「前にも言ったでしょう。魔法を理解すれば、誰だって魔法を使うことはできるって。もしかしたら、さっきみたいに空間を広げる魔法や合成の魔法を理解した“者”がいるかもしれないわね」
「それって‥‥」
魔女の言葉にヒカルは驚きと共に不安を感じた。あんな化物を創り出せる魔法を使える人間が魔女以外にもいることに。
「あ、あの‥‥」
難しい顔を浮かべている二人の間を割って、トッティを抱きかかえているナツキが声をかけてきた。
「ありがとうございます。トッティを見つけてくれて‥‥。そしてその…助けてくれたんですよね?」
「まぁ結果的にそうなったのかしらね」と魔女はサラッと答える。
「それで‥‥。その…あなたは一体何者なんです? 明らかに普通の人じゃないですよね。さっきの出来事といい、化け物になっていたトッティを元に戻したりとか‥‥」
「あら、ヒカルから何も聞いていないの?」
「まだ詳しくは‥‥」
魔女は白いワンピースのスカートの裾をたくし上げるカーテシーポーズを取り、名乗った。
「ご覧の通り魔女よ」
「ま、マジョ‥‥魔女!?」
ヒカルと同じような驚きを見せるナツキ。
既に陽が山に落ちて行き、夕焼けのオレンジ色の日差しが魔女のイタズラな笑顔を照らしだす。
「ふふ。さて、ワンちゃんも見つかったことだし、今日はお開きにしましょうか。もう夕方だし、お腹が空いちゃった。早く家に帰りましょう!」
「あ、ちょっと待って‥‥」
山ほど訊きたいことがあったナツキは魔女に詰め寄ったが、魔女は立てた人差し指を、そっとナツキのおデコに突っついた。
「今日は疲れちゃったから。質問とか詳しいことは明日ね!」
すると突然の眠気がナツキに襲いかかり、力無く身を崩してその場で眠り込んでしまった。
「ま、魔女さん! なにしたの!」
「だって、流石の私も疲れちゃったし。この後に質問攻めされるのが目に見えて解ったから、ナツキには悪いけど眠って貰ったのよ」
「だからって‥‥」
「とは言っても、ナツキも相当疲労困憊していたようね。ちょっと眠りに誘っただけで、これだもん」
ずっとトッティを探して町中を走り回り、そして先ほどの出来事。
ナツキもそうだが、ヒカル自身も相当疲れていた。
それにゲーム機が破壊されてしまい、身体だけではなく心の方も憔悴していた。
「よいしょっと‥‥」
魔女は安らかな寝息を立てるナツキを背負い、そそくさと歩き出した。その後を飼い主であるナツキを案じてか、トッティが追いかけていく。
「あ、魔女さん。待って!」
ヒカルはトッティを警戒しつつ、その後を追いかけながらふと後ろを振り返り、ちょっとした大冒険と戦闘を繰り広げた“排水口”を見つめる。
「あそこ、一体なんだったんだろう」
そして魔女は横を歩くトッティと声をひそめて話していた。
「‥‥そう。何も覚えてないの。それじゃ仕方ないわね」
ヒカルと魔女は今回の騒動の謎を心に仕舞い、家路へと向ったのであった。
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