42日目 魔女が現れた

2/6
前へ
/34ページ
次へ
   ② 「宿題をまったくしていない訳じゃないし‥‥。うん、大丈夫!」  ヒカルは現状の問題に対して最悪ではない。と、自分勝手な判断しつつ、夏休みの最後の一日を有意義(ゆういぎ)に過ごすことにしたのである。  しかし、どこに行く()のない逃亡劇(とうぼうげき)。  いつもの習慣で携帯ゲーム機を持ち出してきたものの、携帯ゲーム機にインストールしているゲームは、この夏休み中でほとんどやり尽くしていた。  今さら(ひと)りで遊んだとしてもツマラナイものであるが対人プレイならば遊び尽くしたゲームでも相手がいるだけで楽しく遊べるものである。そこでヒカルは遊び相手を探しに、人が集まる場所へと向かった。  まず向った先はヒカルが通う小学校の近くにある“ラクガキ堂”という駄菓子屋(だがしや)(けん)文房具屋(ぶんぼうぐや)。  みんなの(いこ)いの場であり、()まり場である。  普段だったらヒカルのような子供たちで(にぎ)わう所なのだが、店の入り口にシャッターが降りていたのだった。 「あれ? 閉まっている‥‥」  どうやら臨時休業(りんじきゅうぎょう)で閉店しており、当然のごとく子供たちの姿は無かった。  ヒカルは仕方(しかた)なく別の場所へと向かうことにした。  次に向った場所は、ヒカルたちの遊び場となっている伊河自然公園(いかわしぜんこうえん)。  ヒカルが暮らす市名を(かん)した、住宅街からやや外れた場所にある公園で、サッカーが出来るほどの大きな広場を有しており、隅にはブランコなどの遊具が設置されている。  一見、ただの運動場(うんどうじょう)がある公園だが、どうして“自然”という名前が付けられているのかというと、かつてこの辺りには木々が生い(しげ)る深い森が存在していたからだ。  陽の光さえ差し込まないほどの深い森だった事から“陽無(ひなし)の森”とも呼ばれていた。  その森は都市開発による森林伐採(しんりんばっさい)や、図書館などの公共施設(こうきょうしせつ)建設(けんせつ)などの開拓によって、徐々(じょじょ)にその姿を消していった。  だけど公園の(すみ)に小さな範囲(はんい)ではあるが、一部の原生林(げんせいりん)は手を付けられずに小さな森が残っている。その部分が在ったからこそ“自然”という名称(めいしょう)が付けられたのである。  子供たちは名前の命名理由(めいめいりゆう)など露知(つゆし)らずに公園で遊んでいる。  子供が公園で遊ぶ‥‥それこそ“自然”な光景ではある。  ヒカルは真夏の太陽に()らされて、(あせ)(たき)のように流れ落ちながら公園に到着(とうちゃく)したものの、 「あれ? 誰もいないな‥‥」  公園にはヒカルの友達や知り合いどころか、まだ昼前の時間帯(じかんたい)にも関わらず、人っ子一人も居なかったのだ。  こういう事は珍しかった。現にこの夏休み中、この公園に来れば(かならず)(だれ)か人の姿はあった。  広い運動場にヒカルがポツーンとただ一人。  静かで何とも言えぬ不気味(ぶきみ)雰囲気(ふんいき)が漂っていた。  ヒカルは近くにあったベンチに座り、これからの事を考えた。 「どうしようかな‥‥」  このままベンチに座って、ゲームをしつつ誰かを待とうとしたが、八月末とはいえ、まだ太陽はサンサンと地面を(ねっ)して気温(きおん)を上げており、日陰(ひかげ)に居たとしても熱中症(ねっちゅうしょう)になってしまうだろう。 「そうだ。マルくんの家だったら遊べるかな?」  遊び友達のマルくんは、この公園の近くに住んでいた。  早速(さっそく)とマルくんの家へは公園の隅の森‥‥日無の森を通り抜けた方が早く着く。つまり近道(ショートカット)が出来るのだ。  一刻(いっこく)(はや)(すず)みたいと遊びたいという衝動(しょうどう)()られ、迷わずにその(ルート)を選んだのだった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加