3日目 秘密の花園で会いましょう

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   ②  ヒカルたちは、あの“排水口(はいすいこう)”の前に到着(とうちゃく)した。  途中でトッティは排水口に近づきたくないのか、(かた)まったかのようにその場で足を止めていた  ナツキはリードを引っ張り、渋々(しぶしぶ)(したが)わさせる一幕(ひとまく)があった。  排水口の穴は猫が入れるぐらい小さく、とても自分たちが中に入れるサイズではなかった。 「昨日、確かに私たちが入れるほどの大きさだったよね」  弱々しく水が流れる排水口の穴の中をナツキが(のぞ)くも、奥は真っ暗で何も見えない。  とても昨日、この中に入ってトッティキメラに(おそ)われたとは思えない。 「ねぇ、ヒカル。昨日の出来事って、本当のことだったのかな?」 「と思うよ。携帯ゲームは壊れていたし」 「うっ‥‥。あれは本当にゴメンねって。いつか必ず弁償とかはするから。ねっ!」  ナツキの二度目の謝罪(しゃざい)。  すでに一度目の謝罪で誠意(せいい)は充分に感じ取っていたので、しつこくナツキを恨んだりはしない。 「壊れちゃったのは仕方ないよ。多分、魔女さんに直して貰うから気にしないで良いよ。魔女(マギナ)さんを探そう」  とりあえず二人は当初の目的である『魔女(マギナ)さん』探しを行うが、辺りを見回しても魔女どころか人っ子ひとりもいなかった。 「ここには来ていなかったのかな?」  来ていたとしても既に立ち去ったのではと、ヒカルが考えを巡らせていると、 「お、水原とヒカルじゃん。何してんだ、そんなところで?」  頭上から声をかけられたヒカルたちが上を見上げると、使い古しのマウンテンバイクに(またが)ったまま、橋の欄干(らんかん)から身を乗り出している一人の少年が居た。 「あ、火野くん」 「ツヨシ!」  スポーツ刈りの短い髪で短パン半袖がとてもよく似合っている元気ハツラツな少年の苗字をヒカルが、名前をナツキが呼んだ。  火野剛士(ひのツヨシ)。ヒカルたちと同じクラスメートである。  ヒカルたちの呼びかけにツヨシは片手を上げて(こた)えた。 「オース。で、何してんだ、そんな所で?」 「ちょっと人探しをね」  ナツキが答えると、そのままツヨシに話しかける。 「そうだツヨシ。この辺りで髪が長い女性を見かけなかった?」 「髪の長い女性? 長いってどのくらいだ?」 「えっとね。腰の辺りまであってね、高校生くらいで、すっごく美人な人よ」 「美人? 髪の長い美人‥‥あ、その人なら見かけたぜ」 「「本当!」」  ヒカルとナツキが同時に声を上げる。  ただ髪の長い美人と言っても魔女以外に居るだろう。そこでナツキは改めて詳細な確認を取る。 「その人って、どんな感じだった?」 「どんな感じって、言われたもな。チラッと見ただけで、すっげー美人だったとしか」 「なんか外国人っぽくなかった?」 「あーそうそう。そんな感じだったな。確かに、ここらであんまり見かけない人って感じだったぜ」  ナツキとヒカルはお互い顔を見合わせる。  髪が長くて美人で外国人っぽい高校生ぐらいの女性など、ヒカルたちが住む街でそこら中に居るはずが無い。 「多分、魔女さんね」  ツヨシが目撃(もくげき)した人物は魔女である可能性が高いとナツキが確信持って(つぶや)く。 「ねえ、ツヨシ。その人を何処で見たの?」 「その人なら、あの黄色い看板(かんばん)の店の所で見かけたぜ」  黄色い看板の店といったらヒカルたちも、よく知る店。  その場所は、ここからそれほど離れていない。 「本当! 黄色い看板の店ね! ヒカル、さっそく行きましょう」 「う、うん。ありがとう火野くん。それじゃーね!」  今すぐにでも追いかければ遭遇(そうぐう)できるのではないかと考えて、ナツキたちはツヨシに簡単な別れの挨拶(あいさつ)をして、黄色い看板の店へと向かっていったのだった。 「なんだ?」  ツヨシはそそくさと立ち去っていくヒカルたちの背中を眺めつつ、二人の様子から自分が見た美人(魔女)と関わりがあるのではと察する。  なかなかお目にすることが出来ない美人に気に掛かっていたこともあり、それにヒマだったこともあってか、ツヨシはマウンテンバイクのペダルを踏んで、二人の後を追いかけていった。  後を付いてくるツヨシに対して、ナツキがジト目で見つつ(たず)ねる。 「ん? なんで付いてきているのよ?」 「いいじゃんか、ヒマしているし。それに美人だったし、ちょっと興味があるし」 「(ひま)なら夏休みの宿題とかすれば良いじゃない?」  ナツキの正しい注意にドキっとするヒカル。未だヒカルは宿題は手付かずだったのである。だがツヨシは軽く笑い返す。 「オレがそんなことをする人間に見えるか?」 「そんなこと言って‥‥。宿題をやってこないと國府田先生にめちゃくちゃ怒られるわよ」 「宿題をやらなくても死にはしないぜ!」  ツヨシとはナツキと共に一年生から同じクラスメートであり、これも一種の幼馴染と言える。  ツヨシとナツキはお互い明るく元気な子供同士で、クラスの徒競走(ときょうそ)で男子一位と女子一位だったりと運動神経(うんどうしんけい)が良い二人だからなのか、妙なライバル意識(いしき)を持っていたりする。それ(ゆえ)に、よく衝突(しょうとつ)を繰り返す関係ではあるが、険悪(けんあく)という訳では無い。 「まったく。そういえばヒカルはヒカルで、ちゃんと宿題しているんでしょう?」 「え、えっと‥‥まだ。まぁ夏休みが始まったばかりじゃん。今度はちゃんとやるよ。うん、やるよ」 「今度は?」  ナツキはヒカルの言葉に少し引っかかったが、 「二人とも早く行こうぜ! ボヤボヤしていたら、あの美人がどっかに行ってまうぜ!」  マウンテンバイクに乗ったツヨシが率先(そっせん)として前に出る。黄色い看板の店へと案内するような態度がナツキに(かん)(さわ)った。 「もう、勝手に仕切(しき)らないでよ!」 「ところでで、あの美人の名前は何て言うんだ?」 「知らないわよ!」  こうして魔女探しのメンバーにスポーツ刈りの少年‥‥ツヨシが同行したのであった。
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