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④
ここに至るまでの経緯を振り返ったヒカルは、思わず深く深い嘆息をしてしまった。
魔女・出口・トッティと何時間も探し歩き回ったので、ヒカルたちは疲労と空腹がピークに達しており、白い木にもたれ掛かり休憩していた
「トッティー！ どこよー！！」‥どこよ！ー」どこよー‥‥」
休憩中でもナツキはトッティに届くように叫んだ声がこだまするだけだった。
その反響する声に反応して、ツヨシが唐突に『ヤッホー』と大声が叫ぶと『ヤッホー』が反響した。
街中では味わえない体験にツヨシはおもしろがっていた。
「アイツ（ツヨシ）は、こんな状況で‥‥」
脳天気なツヨシの行動にナツキの怒りゲージが沸々と高まってしまった。
ヒカルはナツキの気持ちを察して、疲れ果てた身体にムチを打ちトッティ探しに協力するように呼びかけてみる
「と、トッティー。どこーー‥‥んっ？」
近くの茂みの一部分が揺れたような気がした。
ヒカルは草むらをかき分けると、地面にポッカリと小さな穴が空いているのを見つけた。
穴の直径はサッカーボールほどで、穴のフチには土が土手を形成するように盛られていた。それはまるで掘ったような形跡でもあった。
ヒカルは閃く。
「もしかしてトッティは、この穴から‥‥」
ヒカルは穴の中を覗き込む。穴の先は真っ暗で何も見えなかったが――
『ワォ～ん‥‥』
微かだが犬の鳴き声らしきものが聴こえてきた。
この状況下で思い当たる声の主は――
「トッティだ！」
ヒカルの声にナツキがすぐさま反応し、ヒカルの元へと駆け寄ってくる。
「えっ、本当！ ヒカル、トッティは何処！？」
「この穴からトッティっぽい犬の鳴き声がしたよ」
ナツキは穴に耳を傾けたが、
「‥‥」
何も聴こえてこない。
「ヒカル。本当に、この穴から聴こえてきたの？」
「うん、さっき」
腰を落として穴を見ているヒカルたちの元へ、ツヨシが近寄ってくる。
「どうしたどうした、そんなところで‥‥」
ツヨシが二人の背後に立った瞬間、三人が居た場所の地面が突如崩れてしまい――
「えっ？」とヒカル。
「へっ？」とナツキ。
「おっ？」とツヨシ。
ヒカルたちは穴へと、
「「「うわっっっっ～～～～！」」」
転げ落ちていった。
おむすびコロリンのおとぎ話のように、真っ暗で上も下も解らない。そもそも転げ落ちる中で、それすら関係無い。あちらこちらに身体がぶつかっては踏ん張って止めようにもどうしようも無く、落下していくことに身を預けるしかなかった。
どこまで落ちていくんだと思った矢先、身体が浮く感じがした。
いや、本当に浮いている。それは空中に投げ出されたからだ。
「「「えええええぇぇぇぇっっっっ！」」」
再び重力に捕らわれて落下していき、ヒカルたちは平坦な大地へと――ー
先にツヨシ、
「ぐへっ！」
その上にヒカルが、
「うわっ！」
そして最後にナツキ。
「きゃぁ！」
三人は不恰好な態勢で着地したのであった。
ナツキはツヨシたちがクッションになってくれたおかげで衝撃を緩和してくれて、大した痛みを感じなかった。その代わりにツヨシは大ダメージだ！
痛みに悶えるツヨシとヒカルを余所に、無事だったナツキは顔を上げていち早く辺りの様子を伺う。
「ここは‥‥」
ナツキの瞳に真っ先に映ったのは、彩り豊かに咲き乱れた花々。
先ほど自分たちが彷徨っていた無簡素な場所とは打って変わって、所々から木漏れ日が差し込んで神秘的な光景を創りだしていた。
ナツキの乙女心を激しく刺激するほどに。
「綺麗‥‥」
甘い香りが漂い鼻孔をくすぐる。その香りで悶絶していたツヨシとヒカルは我を取り戻し、二人も場の光景を目の当たりする。
「な、なんだ、ここは？」
ツヨシが一驚の声をあげた。
ただの花畑ではないというのはヒカルたちは直感していた。
穴の下に落ちてきたにも関わらが、頭上には真っ白な空が広がっており、不思議な空間なのだろうと。
咲く花も、今まで見たことがない花ばかり。
どこからともなく川のせせらぎが聴こえてくる。
「ねえ、あれ！」
ナツキが指差した先‥‥花畑の奥には古めかしい丸太小屋がぽっつりと建っているのを見つけた。それはまるで、グリム童話などの挿絵に描かれているような魔女の庵のようだった。
「こんなところで何しているのよ、キミたちは？」
ヒカルたちは呼びかけられた方を一斉に向くと、そこには――
「ま、魔女さん！」
魔女が左手を腰に当てて立っており、隣にはトッティもいた。
「ワン！」
ついにヒカルたちは尋ね人（魔女）と尋ね犬（トッティ）に会うことが出来たのだった。
「あら、見かけない子もいるわね」
魔女はツヨシの方に目を向ける。
ツヨシもまた魔女を見て、黄色い看板の店付近で見かけた人物だったと確信したが、声を発するのも忘れるほど魔女の端麗な容姿に見惚れてしまっていた。
トッティはナツキの元へ駆け寄り、ナツキが抱きかかえると顔をペロペロと舐めてくる。
「ちょっと、トッティ。やめてよ、くすぐったい！ もう、心配したんだからね！」
飼い主と飼い犬のスキンシップを魔女は微笑ましく眺めつつ、言葉をかける。
「まったく驚いたわよ。犬の鳴き声がするかと思ったらトッティがいて。その後に、こうやってキミたちが現れるなんて‥‥どうやって来たの？」
魔女の質問にヒカルが疑問で返す。
「それはこっちの話しだよ。魔女さん、ここは何処なの？ 絶対に普通の場所じゃないよね？」
「ああ、ここはね。ここは私の“秘密の花園”よ」
「ヒミツのハナゾノ？」
「そう。メアリーチャチャチャ♪ まぁ立ち話もなんだから。詳しい話しは、あそこでしましょう。美味しいお茶とお菓子を出すわよ！」
そうして魔女はヒカルたち古めかしい丸太小屋へと案内したのであった。
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