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⑦
「そうよ。君たちなら、どんな魔法を使えるようになりたい?」
魔女の言葉にヒカルたちはめいめいに使えるようになりたい魔法を思い浮かべる。
ナツキは、
「だったら空を飛べる魔法かな。ほら、ホウキにまたがって飛ぶやつ。実はあれ、憧れていたりしていたのよね」
ツヨシは、
「確かに空を飛べるのもアリだけど。それよりもアレだよアレ。手から炎とか雷やビームとかを出せるようになりたいぜ!」
そしてヒカルは、
「え~と、ん~と‥‥」
これだと思う魔法を思いつかないようだった。
しかし、まるでクリスマスプレゼントを買って貰うように胸をときめかしていると、
「ああ、今日教えてあげられる魔法は一つだけだからね!」
魔女が付け足した内容に、三人は一斉に「「「えー!」」」と不服の声をあげた。
「お姉さん。そんなにヒマじゃないのよ。今日は一つだけ。それに何事も自分の思い通りにはいかないものよ」
教えて貰える魔法が一つということでヒカルたちは激論を繰り広げる事態になった。
「てか、手からビームとかが出てきて、それがどうなる訳よ?」
「バカだな、悪いヤツとかに襲われた時に使うんだよ!」
「はっ? そんなの滅多に、というか起きる訳ないじゃない!」
「バカ、万が一って事があるだろう」
「だったら、空が飛べる魔法ね。空を飛べれば、危ない目にあったとしたら飛んで逃げられるじゃない。ヒカルだって、空を自由に飛びたいよね?」
「何言ってるんだよ、逃げるなんてダセぇ。手からビームが出て撃退したほうがカッコイイだろう」
「だから、それよりも‥‥」
自分たち‥‥特にナツキとツヨシが自分の意見を通そうとぶつかり合い、ヒカルは右往左往と二人を傍観していた。
「‥‥やっぱり、こうなるわよね」
言い争っているヒカルたちを見かねて、魔女は助け舟を出す。
「話し合いで決着が着かないのなら“世界でもっとも平等の決め方”で決めた方が良いかもね」
「世界で」
「もっとも」
「平等な決め方?」
ヒカルたちが復唱すると、魔女は茶目っ気たっぷりの表情を浮かべて、
「そう。それは“ジャンケン”よ」
魔女の子供っぽい提案にヒカルたちは「えっ?」と唖然としてしまう。
ヒカルが改めて確認する。もしかしたら魔女的な特別なジャンケンなのかも知れない。
「ジャンケンって、あのジャンケン? グー、チョキ、パーの?」
「そうよ。人類が生み出したもっとも平等な決め方。己の判断で全てが決まる決め方よ!」
グー(石)、チョキ(ハサミ)、パー(紙)を手の形で模して、勝敗を決める遊戯。
日本のみならず世界中にもジャンケンに類似した拳遊びが存在すしている。
「でも、そんな運任せ‥‥」
「あら? 運も実力の一つだって言うでしょう。それに今の状態で平和的な話し合いで決まる訳でもないし。ジャンケンで決めた方が後腐れはないでしょう」
その説明にツヨシは一理あると納得するように頷いた。
「確かに給食での余ったデザート争奪戦の時は大抵はジャンケンだしな。負けたらしゃーないし。うん、オレはそれでいいぜ」
一方でナツキは不満げな表情を浮かべつつ、隣に居るヒカルに意見を求める。
「ジャンケンって‥‥。ヒカルはどう思う?」
「う~ん。よくよく考えれば、それが良いかも知れないね。現にナツキちゃんと火野くんで話し合って決着がつくとは思えないし」
先ほどの自分たちの醜い行いに、ぐうの音も出ない。
その代わりにとナツキは唇を尖らせて、
「そうね‥‥。解ったわ、ジャンケンで決めましょう」
了承した。
こうしてジャンケンで決着をつけることに。
「最初はグーからね」
「一回勝負? 三回勝負?」
「ここは、一回勝負だろう!」
ナツキが始めの掛け声を決め、ヒカルが勝負回数を尋ねれば、ツヨシが答える。
一回勝負で決まった。
ナツキが腕を交差してねじるといったジャンケン必勝おまじないをすれば、ツヨシは手を開いては閉じてと軽い準備運動をする。そしてヒカルは静かにその時を待った。
暫くしてナツキが爛々とした目を見開き、音頭を取る。
「それじゃ良い? 最初はグー!!」
「「「ジャンケン、ポン!!!」」」
掛け声を発すると共に三人は各々が自分自身で選んだ手を出すと、勝負はたった一度で決したのであった。
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