3日目 秘密の花園で会いましょう

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   ⑧  ヒカルたちは小屋の外に出て、花畑の(となり)にある空き地で魔女(マギナ)から魔法の手解(てほど)きを受けていた。 「さて。攻撃的(こうげきてき)な魔法は数あれど、今のキミたちのレベルに合ったものとすると”電撃(でんげき)の魔法“かしら。人類が四番目に手に入れた力ね」 「おっ、電撃(でんげき)の魔法って如何(いか)にもカッコイイよな!」  先ほどのジャンケンの勝利者はツヨシだった。  ツヨシはチョキを出し、ヒカルとナツキはパーを出してしまった。  勝利が確定した瞬間、ツヨシはそのままチョキ《Vサイン》を二人の前に(かか)げたのが、ウザいと内心思ってしまった。  なにはともあれ、手から炎とか雷やビームとかを出せるような魔法を教えて貰うことになったのだ。 「なにが電撃よ。そんなの必要無いでしょうに‥‥」  頬を膨らませてブツブツと不服(ふふく)を漏らすナツキ。しかし、自分たちが決めた約束(やくそく)(まも)るしかなかった。 「それじゃ、さっそくやりましょうか。ヒカルたちはそこに寄って集まって動かないでね」  魔女(マギナ)に言われた通りにお互いの肩が触れるほど近くに集まるヒカルたち。 「トンドロインファーノ・コーレキティブ・フォルトプレーナ・ドーニ(雷の子たちよ、ここに集まりて、この者に力を与えよ)」  魔女(マギナ)が呪文を唱えだすと、ヒカルたちを中心にして地面に光の魔法陣が浮かび上がった。 「おおっ!」 「きゃあっ!」  その光景にツヨシとナツキが大きな驚きの声をあげてしまう。  魔法陣の中に、いくつもの光の玉が出現し始め、それらがヒカルたちに集まりだす。 「ちょっとピリッとするからね、我慢(がまん)してね」 「えっ?」  何が?と質問する()もなく、光の玉がヒカルたちの身体(からだ)()れると、魔女(マギナ)の言う通りにピリッと(しび)れる(いた)みが(はし)る。  次々と光の玉が触れてきて、その度に「痛っ!」と言葉(ことば)()れてくる。  我慢できるほどの痛みではあるが、何度も受けるには(つら)いというか拷問(ごうもん)のようだった。  魔女(マギナ)は気にせずに呪文を(とな)え続けて、光の玉が全て無くなった頃にはヒカルたちはボロボロとなって地に()していた。 「はい、終わったわよ。これで、雷撃の魔法が使えるようになったわよ」  フラフラとなりながら起き上がるヒカルたち。 「あ、あれで?」 「そう。試しに、あそこにある木を狙って使ってみなさい。魔法を発動させるためには、人差し指でも立てて、宙にマルっと円を描いて‥‥トンドーロパーフィ《雷撃の矢》!」  説明通りの動作を取った魔女(マギナ)の指先から一筋(ひとすじ)雷光(らいこう)(はな)たれた。  雷光(らいこう)が木に命中し、パンッと粉砕した。 「おおっ! すっげー!」  ツヨシが(おどろき)きの声をあげ、ナツキもヒカルもその光景(こうけい)に目が(てん)になってしまう。 「とまぁこんな感じよ。やってみなさい」 「よーし! えっと‥‥人差し指で円を描いて‥‥」  我先(われさき)にとツヨシが魔女の言われた通りの所作(しょさ)を取り、「トンドーロパーフィ!」と呪文を唱えると、魔女と同じように指先から雷光(らいこう)が放たれた。  雷光は木には命中しなかったが、魔法を使えたことにツヨシは(はげ)しく感動(かんどう)した。 「すっげー! 本当に使えたよ! すっげー!」 「まぁ、初めてにしては、そんなものよね。練習すれば命中するようになるわ。ほら、ヒカルたちもやってみなさい」  続けてヒカルとナツキも呪文を唱えると同じく、雷光が放たれる。  あっけなく魔法が使えたことに二人は(しば)呆然(ぼうぜん)した後、 「ま、魔女さん、使えた! 魔法が使えた!」 「ふふ、結構気持ち良いもんでしょう」  ツヨシと同様にはしゃぐヒカル。かたやナツキは電撃がほとばしった自分の指先を見つめ、疑問(ぎもん)に思ったことを口にした。 「ねぇ魔女さん。どうして、この魔法が使えるようになったの?」 「そうね。簡単にファンタジーに説明するとね。さっきの光の玉は雷の精霊(せいれい)で、それをキミたちの身体に留めさせたの。そして、さっきの円を描いて呪文を唱えたことで身体に溜まっている雷の精霊を雷光に変換させて、あんな風に放出させたのよ」  魔女の説明にナツキは自身が経験した思い出が浮かんだ。 「なんか、あれね。理科の授業で習った静電気(せいでんき)のようなものかな?」  その言葉にヒカルが反応する。 「ああ、冬の時に理科の授業の実験でやったやつ?」 「うん。ほら、あの実験で私たち身体の中にある静電気を伝導(でんどう)させたりしたよね」  ヒカルたちは去年‥‥三年生の冬に理科の授業で静電気について習っており、その事を思い出したのだった。 「あー、あれか‥‥」  ツヨシは(しぶ)い表情を浮かべていたが、二人と魔女(マギナ)は気にかけたりしなかった。  それよりも魔女(マギナ)は三人が静電気について多少なりに知っていたこと気を良くした。 「おっ、そういう知識と経験は有ったのね。感心感心(かんしんかんしん)。そうね、確かにこれは静電気の凄い版みたいなものよ。人間もとより物質には“帯電(たいでん)”という性質(せいしつ)を持っているのよ。ネタバラシをすると、さっきの魔術式(まじゅつしき)で君たちの帯電(たいでん)性質(せいしつ)体質(たいしつ)大幅(おおはば)に上げた‥‥いわゆる、身体に電気が溜まりやすくなったのよ」  少し専門的(せんもんてき)な説明に解ったような解らなかったような。 「な、なるほどね‥‥」  と曖昧(あいまい)相槌(あいづち)を打つヒカル。 「ただ、何発でも使えるはずがないから注意しておくようにね」 「使えなくなってしまうの?」 「一時的(いちじてき)にね。でも、ヒカルたちの身体に静電気とかの雷のエネルギー‥‥おっと、雷の精霊が溜まっていけば、また使えるようになるわよ」  魔女が話している最中でもツヨシは面白(おもしろ)がって何発も魔法を使っていた。そんなツヨシを見つつナツキはため息を吐き、 「確かに凄いみとは凄いけど、(よう)は静電気じゃない。こんなのよりも空を飛べる魔法が断然(だんぜん)良かったな‥‥」  ブツブツとボヤいていた。そして視線を魔女に向けて、直訴する。 「魔女さん、今度は空が飛べる魔法とかを教えてくださいよ!」 「そうね、気が向いた時にね。さて、そろそろお開きにしましょうか。時間も時間だし」 「時間?」  ナツキは自分の携帯電話を取り出し、時間を確認する。 「まだ三時ちょと過ぎですよ。もう少しここに居ても良いでしょう?」  各自(かくじ)門限(もんげん)は様々だが、午後三時‥‥家に帰るような時間帯ではない。  それにもう少しここに滞在して魔法を教えて貰いたかったが、魔女(マギナ)は首を横に振り、微笑(ほほえ)んだ。 「ダ~メ。それにね、ここはちょっと時間の流れがおかしいのよ。ヘタしたらおばちゃんになっちゃうし、もしかしたら、変な影響を与えてしまうかもね。とう言う訳だから、さっさと帰りなさい」  何がどういう訳なのか、魔女が言ったことをナツキたちは理解することが出来なかったが、魔女(マギナ)微笑(ほほえ)みに()も知れない恐怖を感じてしまい、仕方(しかた)なく帰ることにした。
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